おかえりなさい2
おかえりなさい
なんて素敵なぬくもりのある言葉なのかしら。
おかえりなさい
なんて幸せなのだろう、この素敵な言葉を貴方に言える私は。
おかえりなさい
今まで辛かったのは現実だったのに、この言葉一つで夢だったんじゃないかと思える程、胸が温かい。
おかえりなさい
セブンスヘブンに戻ってすぐ、ティファは宴会の為の準備に取り掛かった。
マリンとデンゼルも手伝おうとしたが、マリンは久しぶりのバレットとの再会でもあるし、デンゼルは彼の憧れのヒーローの帰還なのだから、とやんわり二人の申し出を断った。
ユフィは初めから手伝うよりも、仲間達との再会を喜んで話すのに頭が一杯であるのが良く分かっていたので、当てにはしていない。
ティファはカウンターの中で忙しく料理を次々と仕上げていきながら、久しぶりに感じる満ち足りた幸せに浸っていた。
ほんの数日前には想像も出来なかった幸せが、目の前にある。夢ではない。目の前で可愛い子供達に両脇を固められ、少しはにかみながら一生懸命話を聞いている彼は、夢じゃない。幻じゃない。
思わず、涙が溢れそうになる。
「はぁい、皆、お待たせ。沢山作ったからおなか一杯食べてね!久しぶりに腕によりかけて作ったわよ」
ティファの明るい声と次々テーブルに並べられる料理の数々に、感動の声が上がる。
料理の素材は質素な物なのに、彼女の手にかかれば何とも豪勢な料理に変身してしまうのだから、セブンスヘブンが繁盛するのも頷けると言うものだ。
「おお、ひっさし振りだなぁ、ティファの料理!!あの辛く、苦しい旅もティファの手料理でどれだけ慰められたか」
ユフィが賞賛の言葉と共に、自分の皿へ物凄い勢いで料理をよそっていく。
「ちょっとユフィ、おいらにも何かよそってよ、そんな勢いで持ってっちゃったらなくなっちゃうじゃないか」
「何言ってんのさ、そんなの早い者勝ちに決まってんじゃん」
「大丈夫よ、ほら、ナナキもまだ沢山あるから慌てないで」
ユフィとナナキの間に入って苦笑しつつ、ナナキの為に深皿に肉メインの煮物をよそって椅子の上に置いてやる。
そして、またカウンターの中に戻り、今度はバレット・シド・ヴィンセントそしてクラウドの為に、それぞれの好みのアルコールを作りにかかる。
「少し休んだらどうだ?」
動きっぱなしのティファに、意外にもヴィンセントが声を掛けてきた。ティファは、この寡黙な仲間が本当は非常に繊細で優しく、周りの人を良く見ている事を思い出した。
「ありがとう。でも大丈夫!今日は、皆に美味しい物沢山食べて、喜んでもらいたい気分なの。嬉しすぎてじっとしてらんないって言うか」
微笑を絶やさずに、テキパキとカクテルや水割りを作るティファに、ヴィンセントは微かに微笑を浮かべ、そっと呟いた。
「クラウドは、試してみて成功したようだな」
「えっ?
キョトンとして一瞬手の動きを止め、自分を見つめる彼女にヴィンセントは、ゆっくりとかぶりを振り、
「本人に聞くべきだ、私からは言わない」
と一言だけ答え、ティファが作った水割りやカクテル・ビールを手に、バレットとシドのいるテーブルへと向かった。
カウンターの中でその後姿を見送るティファの目には、その背中に寂しさが入り混じっているように見えた。
結局、と言うか案の定、宴会は深夜を過ぎてもシド・バレットを中心とした中年組みが、その勢いを保ったまま飲み、食べ続ける状態となった。
流石にお祝いだからと言っても、子供達には起きていて良い時間ではない。目をしょぼしょぼさせながら「まだ寝たくなーい」と駄々をこねる子供達を宥めつつ、子供部屋へ連れて行こうとした時、いつの間にか仲間からの絡みから抜け出ていたクラウドが、二人をひょい、と抱きかかえてティファに微笑みかけた。
子供達は、久しぶりのクラウドの抱っこに嬉しそうな声を上げながら、素直にその肩に顔を埋めてティファや皆におやすみの挨拶を送る。
クラウドのその笑みを微笑みで返し、ティファは子供部屋へ消えるクラウドの後姿をしばし階段の下から見つめていたが、不意に仲間達の視線が自分に向けられている事に気づいてギョッとした。
「な、何、皆して変な目で見て」
「べっつに〜、変な意味で見てるわけじゃないよん」
若干酒で赤い顔のユフィがニヤニヤ笑いながら軽く手を振って見せ、仲間に振り向いて「ねー!」と話を振る。
「おうよ、別に何にも意味なんかないぞ、なあ、レッド?」
「うん。何もないよ、本当に。クラウドがやっと戻ったから安心してるんだなあ、何て思ってないよ、ねぇバレット?」
「おう、本当に俺達も漸くホッとしたなんて、これっぽっちも思っちゃいないぜ、なぁ、ヴィンセント?」
「………何故私にまで話を振る」
「冷たいでんなぁ、ヴィンセントはんも気にしてはったやないですか」
仲間の温かい眼差しと言葉の数々、その光景にティファは恥ずかしいという気持ちよりも嬉しさが胸に込上げてきて、涙が出そうになる。
「もう、皆して…」
くるっと後ろを向き、サッと指先で目じりを拭うと、満開の花のような笑顔で「ありがとう」と言った。
その笑顔は、本当に久しぶりに目にするもので、そう、あの旅で≪あの彼女≫が凶刃によって星に還る前までいつも見せてくれた、その笑顔だった。
≪あの彼女≫が星に還り、仲間皆が心から笑う事が出来ない旅の中で、ティファは星を救った後でも決してその笑顔を作ることが出来なかった。
そのティファが、今、皆の前でかつて見せてくれた笑顔で立っている。
何て素晴らしい日なのだろう。その場にいる皆が心から喜びに胸を膨らませ、そして………。
「何だ、これは」
子供達を部屋に連れて行き、寝入った後もしばしその愛らしい寝顔を眺めて、幸福をかみ締めていたクラウドが、ようやっと降りて来て目にしたもの…。
それは、飲むだけ飲み、食べるだけ食べて豪快に店の中で寝入る仲間の姿だった。
死屍累々とはの事か…。唖然とするクラウドに、寝袋・毛布といった寒さをしのげる物を両腕一杯に抱えてよろめきながら、ティファが店の奥から戻って来た。
「皆、ちょっとハメ外しすぎたみたいだね」
「……ちょっとじゃないだろう………」
皆に毛布を掛けて回るティファを手伝いながら、呆れた声を出すクラウドにティファは優しく微笑んで返した。
「それだけ嬉しくて仕方なかったって事だよ」
ティファの言葉に、クラウドはシドに毛布を掛けようとしたその手を止め、窺うような、バツの悪そうな顔で視線を泳がせた。
そんな彼に、一層笑みを深くしながら、止まったクラウドの手から毛布をやんわりと取り、大いびきでテーブルに突っ伏して寝るシドにそっと掛ける。
そして、真っ直ぐクラウドに向き直ると、
「何か飲む?」と明るく、また少し悪戯っぽく尋ねた。
クラウドは少し逡巡してからこっくりと頷くと、嬉しそうな顔を見せるティファに続いて店のカウンターへと足を向けた。
子供たちを寝かせに行くまで、散々絡まれていた為、ゆっくりと味わえなかったクラウドは、漸く久しぶりのティファの手料理に思わず唸ってしまう。
「美味い」
「本当?良かった」
心からの賞賛の言葉に、ティファも心からの笑顔で返す。
店には仲間のいびきが響いているが、それもかつての旅を思い出させる温かなもので、二人は知らず知らず微笑み合っていた。
「ティファも何か食べたらどうだ?どうせ皆の料理とか作るばっかりでろくに食べてないんだろ?」
「ううん、作りながら味見してたらお腹一杯になっちゃって」
しばし無言のうちに食事を続けていたクラウドが、特に何をするでもないティファに思い切って声を掛けてみた。が、ティファは微笑んでやんわり返すと、やはり何をするでもなく自分の手料理を黙々と食べるクラウドを黙って見つめている。
「そんなに見られてたら食べづらいんだが…」
「そう?」
本当に居心地の悪そうな、はにかむように言うクラウドに、くすくす笑いながらティファはカウンターから店の中へ戻り、テーブルに突っ伏して眠るユフィをそっと揺り起こそうとした。が、全く起きない、いや、起きれないユフィに苦笑すると、ぐっすり寝込むユフィをそっと背負い、二階にある居住区へと階段を上り始めた。
「お、おい、どうするんだ?」
「どうって、お転婆でもユフィは女の子なんだから、こんなテーブルにうつ伏せて寝るなんて良くないわ。今夜は私のベッドを貸すつもり」
「じゃあ、ティファはどうするんだよ!」
慌てて声を掛けるクラウドに、階段の中ほどまで何とか上ったティファは、軽く息を切らせつつ、「マリンと一緒に寝るわ」と軽く応えて彼女の部屋に消えてしまった。
少し、ほんの少し期待、というか、何と言うか、……いや、別に……。
赤い顔をしながら、一人胸の中でぼやいていると、不意に肩に手を置かれた。
「な!な、何だ!?ヴィンセント…びっくりするじゃないか」
赤い顔で抗議するクラウドに、抗議されている当のヴィンセントは、いつもの愛想のない表情でたった一言、
「今夜はティファときちんと話をするべきだ。例え、皆がこんな状態で放っとくのはどうかという状況であってもな」
と、クラウドに告げると、さっさと店の隅を陣取り、寝袋に包まってしまった。
クラウドはヴィンセントの言葉の意味を頭の中で何度も反芻させ、確かに今日、今夜きちんと話をしなくてはならない、と心に決めた。
丁度、その時にようやくユフィをベッドへ寝かせる事に成功したティファが下りて来た。
「じゃ、私ももう休むね。明日はお店、お休みするとしても、皆の朝ごはん作らないといけないみたいだし」
腰に軽く手を当てて店の中を見渡し、苦笑する。
それじゃ、と背を向けようとするティファをクラウドは慌ててその細い腕を掴んで引き止めた。
「え…あの…」予想外のクラウドの行動と、込められた力にティファは困惑してオロオロする。
「今夜は俺の部屋で一緒に話さないか?…と言うよりも、ごめん。今夜中にティファにはきちんと話をしとかなきゃならないって思うんだ」
駄目か?と、まるで小さな子供のように、一生懸命な、それでいて断られるかもしれない、という拒絶を恐れる色を表情に滲ませるクラウドに、ティファは困惑していた心が落ち着きを取り戻し、それと同時に愛しさが込上げてくるのを感じて笑顔を浮かべた。
二人が寄り添うようにして、寝室へと階段を上る姿を、部屋の片隅で薄目で見守っていたヴィンセントが、やわらかな微笑を口元に浮かべていたのを見る者はいない。

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