思いがけずに一人旅 14




「ハッキリ言って…この状況から考えたらいくら貴重な過去の遺産だとしても手放す事を選らぶべきだと思いますけど…」
 鬼気迫る形相で自分に詰め寄る採掘作業員達に、ティファはたじろぎながらもハッキリとそう言った。
 しかし、過去の遺産を愛する心で溢れている採掘作業員達に、ティファの言葉が届く事はなく……。
「なに言ってるんですか!!」
「過去の遺産はこの星の宝です!!」
「例え我々がここで星に還る事になったとしても、この手にある過去からの宝を手放すなんて暴挙…断じて出来ません!!」
「それに、この『角』には他にも何か『力』があるかもしれないじゃないですか!!」
「そうですよ、それがもしかしたらもう二度と得られない『力』だとしたらどうするんですか!!」

 説得力のあるような数々の台詞に、ティファは完全に気圧された。
 しかし…。

「その『力』とやらもこのままドラゴンに追いつかれて撃退出来なかったら、我々はただの犬死になるのだが…」

 ヴィンセントが的を射た正論を口にした。

 過去の遺産に心奪われてる採掘作業員達も、そのヴィンセントの正論を前に「「「う…」」」と、言葉を詰まらせたが、それくらいで引き下がる面々ではない。
 気色ばむと、標的をティファから寡黙な英雄に変更する。
「だから、それを何とかするのがアンタ達英雄の勤めでしょう!!」
「そうだ、俺達は過去からの遺産を発掘し、それを保護し、解明して星の為に活用するのが使命であるように…!」
「アンタ達英雄は、迫り来る危機から俺達を……星を守るのが使命だろう!?」

 なんとも身勝手で酷い言い様に、たちまち英雄達の表情が強張る。
 ある者は顔を真っ赤にさせ…。
 ある者は真っ青になって唇を噛み…。
 そしてある者は絶対零度の視線を突き刺した。
 緊迫した空気が操舵室を支配する。
 舵を握ったままシドは忌々しそうに採掘作業員達を睨みつけ、操縦がなんとも危うくフラフラ揺れそうになるのを、クルー達がハラハラと見守っていた。

「まぁまぁ…。ここで仲間割れをしても仕方ありませんから…」

 唯一、冷静な思考を失っていないWROの局長が、英雄達と採掘作業員の間に入った。
「それにしても、あなた方の言い分では『私達英雄と呼ばれる人間は星に迫る危機を守る使命を負って当然』という風に聞えましたが、それは間違いですよ」
 採掘作業員達だけでなく、仲間達もクルー達も…そして一部始終を黙って見守っていた子供達もリーブの言葉に目を丸くした。
 皆の視線を全身で浴びながら、WROの局長は、


「この星を守るのは『この星に生きる全ての者の使命』です。違いますか?」


 そうキッパリと言い切った。


 採掘作業員達だけでなく、その場にいた全員がその言葉に胸を突かれた。
 英雄達に噛み付いていた採掘作業員達はバツが悪そうに顔を見合わせる。
 ティファと仲間達、そして子供達にクルー達は、リーブの言葉に頬を緩めた。

「流石、WROの局長殿だな」

 沈黙を破って声をかけた人物に、ティファが「あ!」と驚きの声を上げた。
「よ!ティファちゃん、久しぶり」
「クレーズさん…」
 赤みがかった茶色い短髪は記憶にある彼の姿…。
 しかし、最後に彼を見た時よりも日に焼けて引き締まった体躯にティファは目を丸くした。
「お元気そうですね…。それに……すごく身体も逞しくなって…」
「ああ。毎日固い土を掘ってるからな。それなりに身体もしぼれるってもんだ」

 久々の再会に、ティファは顔を綻ばせた。

 いくら彼が自分とクラウドに酷い事をしたと言っても、根っからの悪人ではない。
 それどころか…。
 不器用で……心優しい人なのだ。
 だからこそ、こうして目の前に立つ彼の姿に、少しも嫌悪感を抱かない。
 むしろ、元気そうな顔をして……最後に見た時よりも優しい顔つきのクレーズに、心からホッとした。

「ところで話を元に戻すけど、やっぱりこの『遺物』はライフストリームにドラゴンを誘導する為に使うのが一番だと俺も思うね」
 ティファから採掘仲間達へ視線を移しながら、クレーズがそう言うと…。

「お前……気は確かか!?」
「全く……これを発見したのはお前だってのに…」

 採掘仲間達が口調はやや弱められたものの、それでも反対の意思を表明した。
 クレーズは肩を竦めると、
「それでもよぉ…。もしもこの『遺物』のせいで犠牲者が出てみろよ。俺達、何の為に日々土と格闘してるんだ?星の為に過去の遺産を掘り返す…っていう使命が全く反対の結果を生み出す事になるじゃないか」
「でもな…、多少の犠牲は」
「多少の犠牲はつきものだ…とか言うなよ!?」
 採掘仲間が最後まで言うのを遮り、クレーズはその男を睨みつけた。
 男はクレーズに気を呑まれて黙り込む。
 他の採掘作業員達も同様だ。
 クレーズはそんな仲間達に「はぁ…」と盛大な溜め息を吐くと、首を振った。
「あのなぁ…俺も本当はイヤだっつうの!折角貴重なお宝を掘り当てたんだ。じっくり調べて、どんな秘密が隠されているのか隅々まで調査したいって思ってるんだぞ!?」
「じゃ、じゃあ…」
「そうだよ、何もみすみす手放す事は…」
 縋るように尚も引きとめようとする仲間達に、クレーズは短髪をガシガシと掻き毟った。
「だああああーーーー!!だから、その誘惑と必死に戦って苦渋の選択をしてる俺の心を挫くような事、言うんじゃねえよ!!!」
 叫ぶように一喝すると、クレーズはリーブに向き直った。
「って事だ。俺の気が変わらないうちに、さっさとそのライフストリームの噴き出してる所に行こうじゃねぇか!」
 ポカンとそれまでのやり取りを見ていたリーブは、クスリと笑うと軽く息を吐き出した。
「ええ。実はもうすぐそこまで来てるんですよ」
 悪戯っぽく笑って見せるリーブに、シドがニシシと笑って頷いた。
「ま、最悪、誰が反対しようが強硬手段に出るつもりだったからな。良かったぜ、渋々でも納得してくれてよ」
「………ま、そんなとこだとは思ってたけどな……」
 諦めたように笑うクレーズに、リーブがちょこっと頭を下げた。
「でも、クレーズさんには感謝してますよ。この場を収めてくれたんですから」
「ケッ!よしてくれ、気色悪い」
 鼻先で笑う振りをしながらも、どこか照れ臭そうなクレーズの姿に、採掘作業員達は顔を見合わせ、諦めたように溜め息を吐いた。
 操舵室に穏やかな空気が流れ出す。
 誰知らずにホッと肩の力を抜いて、笑みを浮かべた。

 その時、ティファはふと思い出した事を口にした。


「ところで……誰がこの『角』をシエラ号に持ち込んだの……?」


 全員がビシッと石化する。
 ダラダラと冷や汗が噴き出すが、その汗を誰も拭おうともしない。
「ティ、ティファ……」
「そ、それはだな……」
「今は……良いんじゃないかなぁ……誰でも……さ……」

「ダ・レ…?」

 英雄達が引き攣りながら話題を変えようとするが、満面の笑みを浮かべているのに、その茶色い瞳にグラグラと煮えたぎらんばかりの怒りを宿したティファに、全員が言葉を飲み込んだ。
 その中でも、犯人のクレーズは蒼白な顔をしてピクリとも動けない…。


『俺……ドラゴンに殺されるよりもティファちゃんに星に還される方が確率高いんじゃないだろうか……』


 その場に流れ出した穏やかな雰囲気は、あっという間に氷点下の極寒へと突入した……。





「目標地点に到着しました」
「了解。よし、全員ハッチ前に行け!」
 クルーの報告に、シドが気合を入れて仲間達を振り返った。
 ジェノバ戦役の英雄達は、表情を引き締めて頷きあう。
「ティファ…」
「父ちゃん…」
 デンゼルとマリンがティファとバレットをそれぞれ心配そうに…不安そうに見上げる。
「大丈夫。ちゃんと戻ってくるから、大人しくここにいてね?」
「おうよ!俺様がそう簡単にやられるかってんだ!!」
 優しく笑みを浮かべるティファと、太く逞しい腕を振り上げ、大袈裟に張り切ってみせるバレットに、子供達は不安そうにしながらも笑みを浮かべて見せた。
 そして、
「ユフィもナナキも…」
「ヴィンセントさんもシドのおじさんも……気をつけてね?」
 他の英雄達にも激励の言葉を口にする。
「大丈夫!このユフィちゃんに任せなさ〜い!」
「ありがとう、すぐに帰って来るからね!」
「……心配するな」
「俺は『お兄さん』だ!『おじさん』言うな……!!」

 最後のシドの台詞に、その場にいた全員がおかしそうにクスリと笑うと、それを合図に英雄達は操舵室のドアへと足を向けた。
「じゃ、後は頼んだぜ!」
「はい、艦長!お気をつけて!!」
「皆さん、艦外通信で適宜情報を流しますから…どうかくれぐれも間違って自分がライフストリームに落ちたりしないで下さいね?」
 リーブが心配そうな顔をした。
 その視線は特にナナキに向けられている。
 ナナキの首には、例の『角』らしき物が括りつけられていた。
「大丈夫だって!おいら、鼻が効くからそんなドジ、踏まないよ!」
 顎を持ち上げて威厳たっぷりに見えるよう振舞う仲間に、リーブは笑みを浮かべた。

「では、健闘を祈ります」

 リーブの激励の言葉を背に、英雄達は操舵室から出て行った。


 ドラゴンをライフストリームに落とす作戦。
 それは…。

 英雄達の中で一番俊足なナナキの首に『角』らしき物を括りつけ、ドラゴンをライフストリームへ誘導する。
 他の仲間達は、囮役になってくれるナナキのガードと、いざその時にドラゴンをライフストリームへ叩き落す役目を担う事になっている。
 現在、ミディール地帯でのライフストリームが噴き出していると確認出来ている場所は、たったの二箇所。
 一つはミディール村。
 もう一つがミディールの西南に位置する孤島。
 昔はもう二つほど噴き出している場所があったのだが、現在は静まり返ってしまっているらしい。
 現地の住人にとっては喜ばしい事なのだが、今回のドラゴン退治に限ってはありがたくない状況だった。
 というのも、選択肢がミディール村の西南に位置する孤島しか無いという事。
 そして、その孤島が非常に小さく、かつミディール村とそう離れていないという事。
 更には、その孤島に存在しているライフストリームの噴き出している泉とも入り口とも言うべきものが、これまた非常に小さいという事だ。
 もしかしたら……小型ウェポン並みに大きなドラゴンは入りきらないかもしれない…。
 いや、よしんば落とす事に成功したとしても、ドラゴンがあの巨体を捻ってもがいたら、すぐに岸に到着し、這い上がってくるかもしれないのだ。
 悪いことに…その可能性が非常に高い。
 出来れば、ミディール村にあるような大きな噴出口が望ましかったのだが……仕方ない。
 ミディールに住んでいる住人全員を避難させる時間も、その避難場所も無かったのだから。
 苦渋の決断となった今回のドラゴン退治。
 勝率は非常に低い。
 リーブはそう考えていた。
 しかし、だからと言ってこのままドラゴンを連れて空を駆け続けることは不可能だ。
 シエラ号の燃料もそんなにもたない。
 全速力で航行している為、燃料の消費が激しいのだ。
 それに、どちらにしろドラゴンをどうにかしないといけないのだ。
 それも……。
 被害が出ていない今のうちに…!

『皆さん……頼みましたよ……』

 祈るようにスクリーンを凝視するリーブに、副操縦士が舵を取りながら、
「大丈夫ですよ、うちの艦長は不死身ですから!それに、艦長の仲間の皆さんも絶対にやり遂げくれます!」
 力強くそう言った副操縦士の言葉は、彼自身に言い聞かせている言葉でもあった。
 それがリーブには痛いほど伝わってくる。
「そうですね。ええ、彼らは私の自慢の仲間ですから、きっとやり遂げてくれますよ」
 リーブの笑みに、副操縦士はクシャリと顔を歪めて無理やり笑って見せた…。

 その一部始終を見届けていた子供達は、互いに強く手を繋いだ。
 スクリーンにはナナキを先頭に、ティファ達がスルスルとロープを伝って孤島に下りていく姿が映し出されている。(無論、ナナキはロープを使わずに軽快に飛び降りていた)。
 孤島にはシエラ号が着陸出来るだけのスペースが無かったのだ。
 密集した木々に、ティファ達の姿があっという間に飲み込まれて見えなくなる。
 シエラ号は、最後にバレットが木々に消えて見えなくなったのを確認し、急速にミディール方面へ移動した。
 万が一、ドラゴンがミディール方面へ興味を示すような事態になった場合に備えての処置だった。
 ……どこまでシエラ号の武器が通用するかは甚だ疑問だが……。

 スクリーンには孤島の映像の他に、青く点滅する小さな点が六つと、赤く点滅する小さな点が一つ、孤島付近の地図上に映し出されていた。
 青い点滅がティファ達。
 そして急速に近付いている赤い点滅がドラゴン。
 みるみるうちに青い点滅に近付く赤の点滅が、子供達の顔を強張らせた。
 握り合った手が汗ばんで気持ちが悪い。
 それでも手を離すことなどとてもじゃないが出来ない子供達は、目を逸らす事無くただ黙ってじっとスクリーンを見つめていた。

 操舵室が沈黙に包まれる。
 赤の点滅が………ドラゴンがティファ達の待ち受ける孤島に到着する予想時刻まで…。
 あと約十分。
 そして、クラウドとクラウン隊員を乗せたヘリが到着する予定時刻まであと一時間だった…。
 当初の予想時刻を上回る速さで近付くドラゴンに、クルー達もリーブも…そしてクレーズ達も固唾を飲むのだった。



「あ〜、何かやっぱり釈然としないなぁ…。こんなに良い天気なのに何が悲しくて未知の生命体と……しかもヤバイやつとやりあわなくちゃなんないわけ……?」
 大樹の張り巡らせた太い枝にしっかりと立ったユフィが、誰に言うともなくぼやき、空を仰いだ。
 快晴だった空は、そろそろ暮色に染まる時刻だ。
 薄っすらと青い空が水色に変わっている。
 もう小一時間ほどしたら、オレンジと紫が綺麗なグラデュエーションとなって大空を彩るだろう…。
 その頃には…。
「クラウドも来てくれるのかねぇ…」
 言外に『間に合うと良いけどねぇ』と何とも不吉な言葉を匂わせる。
 案の定…。
『ユフィ……お前、さっきから不快な事を言うんじゃねぇよ…』
『そうだよ…。おいら、めちゃくちゃ緊張しちゃうじゃないか!』
 通信がオンになっている為、ユフィの独り言は仲間に筒抜けだ。
 シドとナナキが恨めしそうな声を上げる。
「あ〜、ごめんごめん。だってさぁ、こう周りに誰もいないと何となく独り言を口にしちゃうんだよねぇ…」
 あっはっは〜…。

 そうカラカラ笑うウータイの忍に、
『全然反省の色が窺えねぇんだが…』
 シエラ号の艦長が溜め息混じりにぼやいた。
 ユフィは、「へへ…ごめんごめん。柄にもなく緊張気味なんだ〜」と、これまた本当に柄にもなく素直に本音を口にした。
『ユフィ…』
 心配そうなティファの声がユフィの耳に響く。
 ユフィは『あ〜、本当にティファってば自分の事よりも周りの人間大事なんだから…』と少々呆れながらも、心優しい姉のような彼女の声に、身体の震えが少し収まるのを感じた。
「ごめんごめん。大丈夫だって、ティファ!それよりも、あと一時間足らずでクラウドが来るんだから、それまでにあのでっかい空飛ぶトカゲを何とかして、クラウドに『どうでい!!』って言ってやろう!そんでもって、クラウドに美味しいものを奢らせるんだ〜」
 おどけてそう言うユフィに、ティファだけでなく他の仲間達の笑い声が上がった。
『そりゃ良い!』
『おいら、何だかお腹が空いてきたよ』
『上手い具合に空飛ぶトカゲを退治したら、その宴会費用はクラウドもちって事で、じゃんじゃん食べて飲むぜ〜!』
『……そうなると、必然的にティファにも負担がかかるんじゃないのか……?』
 最後に冷静な疑問を投げかけたヴィンセントに、
『『『『あ〜…そっか……そりゃダメだ……』』』』
 シド、ナナキ、バレット、ユフィが見事に声を揃えた。
 あまりに見事にはもった為、一斉に英雄達は吹き出した。

 少し笑っただけだが、それだけで皆の士気が上がった。
 仲間達の姿は見えないが、気配を感じるのだ。
 ユフィは大きく息を吸い込んだ。
 木々の緑の香りが胸一杯に広がる。


 ― 守ってみせる ―


 そう強く思う。
 二年半前に目の前で失った大切な友人であり、仲間であり、もう一人の姉のような存在だった女性の姿が脳裏に浮かぶ。
 彼女の笑顔を無駄にしない為、苦闘の末、セフィロスを討った。
 そして今、新たな危機にこの星は直面している。
 恐らく、新たな脅威に立ち向かえるのは自分達だけ…。
 今ここで、何の犠牲も出していない今のうちに、討ち取らなくてはならない。


 ― 絶対に……無駄にしないからね… ―


 突然、木々の隙間から多くの鳥達が飛び去った。
 ギャーギャーと不気味な鳴き声と共に、一目散に飛んで逃げる鳥達の群れに、英雄達は表情を引き締め、空を睨みつけた。
 ビリビリと強い気配が遠くの空から猛スピードで近付いてくるのを肌で感じる。
 ユフィは頬をパンパンと叩いて気合を入れた。
「やっこさんのお出ましだね」
『ああ…そうみたいだな』
 ヴィンセントの静かな声が緊張を孕んでいる。
『おう、全員気ぃ抜くなよ!』
 シドの言葉に、「そう言うシドこそうっかりライフストリームに落っこちないでよ」とからかう事を忘れずに、ユフィは肉眼でも確認出来るまでに近付いた白銀に輝く巨大モンスターを睨み上げた。


『皆さん、作戦開始です!』


 リーブの声を合図に、ナナキが『了解!』と返答するのが聞えた。
 シドは木々に身を隠しながらブルリと武者震いをし、ナナキが向かっている予定のライフストリームの噴出口を見やった。
 それは、まさにシドの足元に広がっている。
 木々の葉に遮られて見えないが、噴出口の反対側にはティファが…、そして更にシドとティファの間にバレットが配置に着いている。
 ライフストリームからわざわざ離れた場所からナナキがドラゴンを誘導するという作戦の理由は、いくつかある。
 その中でも一番の理由は、ドラゴンがもしもライフストリームから溢れ出ているエネルギーに対して反応を示し、噴出口に近寄らなかった場合を懸念したからだ。
 ナナキは、孤島の最先端に配置に着き、孤島を駆け回ってドラゴンを翻弄。
 徐々に最終目的地である噴出口へ誘導するという作戦だった。
 その噴出口で、待機している仲間三人がドラゴンを思い切り噴出口へ叩き落す…。
 恐らく、ナナキとナナキを護衛する役を担うヴィンセントとユフィにそれだけの余力は無いだろう…。
 一見単純な作戦に見えるが、これ以上の策は思いつかなかった。
 ヴィンセントとユフィは、囮役のナナキの護衛。
 そして万が一、ナナキがドラゴンに捕まりそうになった場合、ナナキは首に括りつけている『角』らしきものをユフィかヴィンセントに渡す手はずになっていた。
 ナナキの首に括りつけている『角』らしきものは、ナナキの前足一本で振りほどけるように顎の下に括っている。
 そして、その『角』を括っている紐は…。


 エアリスのリボンと同じもの…。


 ― エアリス……おいら達に力を貸しておくれよね… ―


 孤島を風のように駆けながら、ナナキはライフストリームで眠る大切な仲間に、心の中でそっと語りかける。
 そんなナナキの体毛が総毛立った。
 身の毛もよだつドラゴンの咆哮がミディール地帯の孤島に響き渡る。


 ドラゴンが孤島に降り立ったのだ。
 ドラゴンに踏み倒された大樹がメキメキと悲鳴を上げて大地に倒れ、次の瞬間大樹が倒れた衝撃と、ドラゴンが獰猛な尻尾を振りながら風のようにナナキを追いかけ、大地を踏み鳴らす地響きが起きた。
 大人が何人も両手を繋いでグルリと一周出来るような大樹が、ドラゴンの尻尾一振りで呆気なく地面に倒される。
 その様子に、シエラ号でスクリーンを凝視していた全員は度肝を抜かれた。

 ナナキが孤島の先端から走り出し、ドラゴンを翻弄しつつライフストリームの噴出口に辿り着くまで約一時間の予定だが…。

『厳しいかもしれませんね……』
 リーブはそう思っていた。
 長時間になると、ナナキの体力は勿論落ちる。
 それに引き換え、シエラ号を今まで追って星を半周以上したにも関わらず、ドラゴンは全く疲れた気配が無い。
『これは……早めに噴出口まで誘導するべきかもしれない…』

 シルバードラゴン。
 一体どんな能力を秘めているか不明な未知のモンスター。
 そのモンスターとの闘いが、こうして幕を開けた。



 あとがき

 はい。とうとう未知との遭遇です(笑)
 これからどうなるのか……!?
 果たしてクラウドの出番はあるのか!?!?(おい!!)
 では次回をお待ち下さいませm(__)m