思いがけずに一人旅 15ドラゴンをライフストリームの噴出口へおびき寄せる作戦が始まって十五分ほど…。 最初の頃は、ドラゴンは真っ直ぐにナナキに向かって……ナナキの首に括られている『角』らしき物に引き寄せられて順調に誘導されていた。 ところが…。 『な、なんかさ……おいら……眩暈がするんだけど……』 ナナキがそう仲間達に通信してきた。 ナナキの護衛を担っているユフィとヴィンセントは、すぐさまナナキの元へ駆けつけ、ライフストリームで待機していた他の仲間達とシエラ号に残っている者達は、息を飲んだ。 ナナキがここで走れなくなったとしたら、とにかくドラゴンからナナキへの意識を逸らすのが最優先だ。 その為にはナナキの首にぶら下げている遺産を、ヴィンセントかユフィの手に委ねなければならない。 でなければ、ナナキはドラゴンの餌食になってしまう。 「ヴィンセント、ユフィ!ナナキから遺産を…!!」 リーブが声まで蒼白にして指示を出す。 『わ、分かってるけど…!』 『ナナキの所に行くまで……少しかかる!』 ユフィとヴィンセントが必死に走りながら答える。 木々のこすれる音、二人の荒い息遣い、ドラゴンの咆哮が通信機からリアルに伝わってくる。 『どうしたの!?二人共、ナナキの傍にいるんじゃないの!?』 通信機は仲間達全員に繋がっている為、今のやり取りを聞いていたティファが焦燥感に駆られて口を挟んだ。 それに対し、 『そ、そうなんだけど…!』 『風に煽られた木の枝や土埃が邪魔をしている。視界と足元が悪くて……、中々ナナキの所まで辿り着けない!』 二人の仲間が苛立ちと戸惑いをない交ぜにした声を上げた。 リーブはその言葉に眉を顰めた。 スクリーンで見る限りでは、そんなに強風が吹いているように見えない。 その証拠に、ドラゴンとナナキを中心とした囮の三人の点滅している周辺の木々は、特に大きく揺れていないのだ。 木々が揺れているのは、専らドラゴンが踏み倒して突進している場所…。 ユフィとヴィンセントが訴えるような状況はスクリーンを見る限りでは見受けられない。 「そんなに…風なんか吹いてないよね……」 「うん……」 子供達が不安そうに囁きあう。 クレーズも不安そうにしながら、そんな子供達の頭をクシャリと撫でた。 そうこうしているうちに、とうとうナナキの居場所を表している青い点滅に、ドラゴンを表している赤い点滅が急接近してしまった。 あと少しで接触する。 「ナナキ!遺産を今すぐ放棄してその場所から撤退して下さい!」 リーブの悲鳴のような指示が、操舵室に響き渡った…。 誰もが息を飲み、身体を強張らせてスクリーンに釘付けになる。 しかし、ナナキの居場所を表している青い点滅に他の青い点滅が接触。 次いでナナキから急速に離れて行った。 その青い点滅を赤い点滅が追いかける。 ひとまずナナキに迫っていた危機を回避出来たわけだ。 操舵室に安堵の溜め息が漏れた。 しかし、そのホッとしたのも束の間。 ナナキの喘ぎ声が通信機を通して流れて来た。 『リーブ……もしかして……あのドラゴンって……『空気』を操るんじゃないかな…………』 その言葉に、操舵室にいる全員とライフストリームの噴出口で待機していた仲間達がギョッとした。 誰もがその言葉の意味を疑い、ナナキの気のせいだと言いたくなる。 しかし、ナナキの言葉を裏付けるかのように、 『あたしもそう思う…。ヴィンセントが遺産をナナキから受け取ってあたし達から離れた途端に、何か普通に戻ったし…』 ユフィがそう告げた。 『そんな……『空気』を操るだなんて……。『風』じゃなくて……?』 ティファが最もな疑問を口にした。 その声は、未知のモンスターへの恐怖で震えている。 誰もがそんなティファと同感だった。 しかし、 『おいらもユフィと同じ意見なんだ…。多分、あのドラゴンは『空気』を操れるんだよ。何て言うか……おいらの眩暈も『酸素不足』から起こったみたいな感じだったし…。それに、ドラゴンの気がおいらからヴィンセントに移った瞬間、眩暈がなくなったんだ。だから間違いないと思う…』 若干呼吸の整ったナナキがユフィの意見に賛成を唱えた。 『そうか……野郎…、飛行中の『空気抵抗』を最小限に抑え込んで飛んでやがったのか……』 シドの悔しそうな声が通信機から流れる。 リーブ達はシドの言葉の前に絶句するしかなかった…。 「……だから全速力で飛ぶシエラ号にも追いつけるだけのスピードで空を飛べたんだ…」 シエラ号の副操縦士が呻いた…。 シエラ号は世界一高性能を誇る飛空挺。 そのシエラ号に追いつけるモンスターの謎が解けたのだから…。 シルバードラゴンが追いつけた理由。 それが……。 「『空気』を自在に操るモンスター……。何という事だ……」 リーブが呻いた。 『空気』を操れるのと『風』を操れるのとでは全く違う。 『空気』を操れるという事は『真空状態』にも出来るという事だ。 そんな攻撃をされたらひとたまりもない。 パニックに陥りそうになるシエラ号の操舵室には、他の英雄達の声が通信回線を通じて響いていた。 『おいおい、もしもあのドラゴンが『空気』を操れるとしたら……ヴィンセントも危ねぇんじゃねぇか!?』 『そうよ!今、遺産はヴィンセントが持ってるんでしょう!?早く補佐に回らないと!!』 『こうなったら、ライフストリームの噴出口で待機してる意味がねぇ!!一刻も早くヴィンセントからドラゴンの意識を逸らさねぇと、今度はヴィンセントが危ねぇ!!』 『おいらもそう思う。でも、あのドラゴンがどうしてあんな『角』に惹かれるのか……意味が分からないよ…』 『今はそんな事を考えてる時じゃないじゃん!』 『ユフィ、そうは言うけどもしかしたらその謎が分かったらヴィンセントをすぐに助けられるかもしれないだろう!?』 『そうかもしれないけど、実際遺産はヴィンセントが持ってて、ヴィンセントは私達を巻き添えにしないように全然見当違いの所を走ってるんだから!遺産がどんな力を持ってるか調べようが無いじゃんか!!』 『……ユフィの言う通りだわ。今はヴィンセントのガードに回る事が一番よ』 ティファの言葉に皆が賛成の意を表し、リーブがそれに対して支持をした。 「ティファさんの言う通り、今はヴィンセントの補助に回って下さい。ヴィンセントは現在、ライフストリームの噴出口に真っ直ぐ向かってます。当初の予定ではナナキが孤島を奔走してドラゴンを噴出口におびき寄せる…というものでしたが…。ヴィンセントは恐らくそれだけの余裕がないと判断したのでしょう。噴出口に到達するまであと三十分もかかりません。皆さん、そのつもりでいて下さい」 そこで言葉を切ると、少し考えてから再び通信機を手に取った。 「ティファさん。申し訳ないですが、ヴィンセントの補佐に回って頂けますか?ティファさんが一番ヴィンセントに近いんです。それに、ユフィとナナキは、先程のドラゴンの『空気』の攻撃で少々弱ってますし…」 ティファが了解と告げると同時にユフィとナナキの抗議が操舵室に響き渡った。 『大丈夫だって!ティファに何かあったらそっちが大変じゃん!!』 『そうだよ。おいらもユフィももう元気になったからヴィンセントの後を追っかけてるし…。ティファは持ち場に戻ってて…!!』 そう言う二人の英雄に、リーブは苦笑を漏らした。 「お二人とも…クラウドさんが怖いのは分かりましたが、それ以上に怖いモンスターが出現してしまったという危機感を持って頂けますか……?」 その言葉に、操舵室のクルーと採掘作業員…それにシドとバレットの笑い声が響いたのだった…。 その笑いは…。 この目の前に立ちはだかっている危機に立ち向かう勇気を、皆に与えるものだった…。 「クラウドさん…クラウドさん……!」 「………………え……?」 「もうそろそろ目的地に到着します…。起きて下さい」 「………………俺……寝てたのか……!?」 ユサユサと肩をゆすられて目を開けたクラウドに、クラウンがなんとも言えない顔をした。 「この状況で寝てなかったと断言されたら、俺は精神科に通わないといけませんね。なにしろ、幻覚と幻聴を一時間以上味わった事になるんですから…」 クラウンの呆れ返った言葉に、クラウドはギョッと身体を起こした。 WROのヘリの窓からは、大海の青とミディールの森林の緑が目に眩しい。 そして、空は薄っすらと暮色を漂わせるオレンジ色に染まろうとしていた…。 「いつの間に……」 乗り物酔いの酷いクラウドは、これほどまでに風景が変わるまで乗り物内で眠っていた記憶が無い為、窓の外に広がる景色に目を見開いた。 そんなクラウドにクラウン隊員が苦笑を漏らす。 「もうかれこれ一時間は眠って増したからね。景色が変わってても可笑しくないです」 「一時間!?」 「…自覚が無いんですか?」 「…………乗り物に乗っててそんなに寝れたのは初めてだ…」 「シエラ号……というか、二年半前の飛空挺ではどうしてたんですか?」 「いや……寝たのは寝たけど……寝つきが悪くて…。昼間はほとんど甲板に出てた……」 クラウドの言葉に、隊員はクスリと笑みを漏らした。 そして、すぐに表情を引き締めると、クラウドが寝ていた間に交わしたリーブとのやり取りを報告する。 その報告の中で一番驚いたのは、やはり、ドラゴンが『空気』を操る能力を持っているという事実だった。 「『空気』を操る……って……!」 絶句するクラウドに、隊員は落ち着いて口を開く。 「まぁ…多分『空気を操れる』と言ってもそんなに完璧に操れる力はないと思います」 「何を根拠にそんな事言うんだ!?」 思わずカッとなって大声を上げたクラウドに、同乗していた他の隊員と、パイロットがビクッと身体を震わせてクラウドを見たが、当の本人は全く怯む事無く持論を述べた。 「もしもドラゴンが本来持っている『空気を操る力』を自在に操れたとしたら、とっくに局長達はドラゴンに捕まってます」 「…………」 「今も、局長達はドラゴンから遺産を奪われずにドラゴンからの攻撃をかわしつつ、ライフストリームの噴出口を目指してます。勿論、ドラゴンは一筋縄ではいかないので作戦は難航しているようですが……」 「…………」 「というわけなので、現地に着いたらティファさんから遺産を受け取ってライフストリームの噴出口に直行します。それがリーブ局長と最後に交わした通信の内容ですが、何か質問がありますか?」 クラウドは一瞬頭が真っ白になった。 今……目の前の若い隊員は何と言った……? 「ティファ……?」 クラウンはクラウドの言いたい事に気付いたのか、訝しそうな表情から一変、気の毒そうな……それでいて気を使った表情に変化した。 「今……ドラゴンをおびき寄せていると思われる遺産を持っているのは……ティファさんです…」 「冗談だろう……?」 呆然と漏らしたクラウドに、クラウンは気の毒な表情を変えずに首を振った。 「残念ながら……。最初はナナキさん、次にヴィンセントさんが遺産を持ってドラゴンを誘導してたのですが、途中でヴィンセントさんの手からティファさんに委ねられたのです…」 勿論、ティファさんの手に渡ってからもユフィさん、ナナキさん、ヴィンセントさん、シドさんと色々な英雄の皆さんに手渡されたんですが…今、遺産を持ってるのはティファさんです……。 そう告げるクラウン隊員に、クラウドは頭を抱え込んだ。 生まれて初めて乗り物酔いを感じないばかりか、爽快な気分で乗り物から降りられると思ったら、とんでもない状況になっていた。 愛しい人がこれ以上無いくらい、危険な目に合っている…。 これにたいして冷静でいられるだろうか……!? いや、絶対に無理だ……。 頭を抱えたクラウドに、他の隊員達が気の毒そうな視線を向けたが、結局は何も言葉にする事はなかった。 クラウン一人が「今のところは問題ないようです」「大丈夫ですよ。ティファさんの傍には他の英雄の皆さんもいらっしゃいますし、そもそもドラゴンは本来の力を出せていないようですから…」「ティファさんも足が速いので逃げられますよ」「いざとなったら、自分の身を守る為に遺産を放棄するよう、局長も指示を出してますし…。遺産よりも自分の身を危険に曝すような愚行、ティファさんがするとは思えません」等々口にし、クラウドを励ました。 「……ああ……そうだな……」 クラウンの努力の甲斐あってか、少々顔色を取り戻したクラウドが顔を上げる。 青白いが、それでもクラウンに初めてティファのおかれている状況を聞かされた時に比べたら断然顔色が良い。 他の隊員達は、クラウドの顔色にそっと安堵の溜め息を吐いた。 「それにしても……。なんだ、あの砂埃は……?」 窓の外を何気なく見下ろしたクラウドの視界に、何やら黙々と立ち込める砂埃が入ってきた。 一見、ただの強風に煽られた砂漠の砂埃に見えるが、その周りは深い深緑一色。 どう考えても……どう見ても不自然極まりない。 その光景に、クラウンは表情を引き締めた。 そして、クラウドの問いに答えることなく、自分の携帯をポケットから取り出して軽やかに操作する。 ほんの少しの沈黙の後、携帯の相手が出たらしい…。 「目的地に到着しました」 その言葉で、相手がリーブだと知ったクラウドは、身を乗り出した。 そんなクラウドの視線をチラリと見ながら、若き隊員は何度か頷きつつ、応対している。 「はい、分かりました。では直ちにクラウドさんと共に、孤島に着陸します。…………はい、大丈夫だと思われますが……代わりましょうか……」 クラウン隊員が躊躇いがちにリーブにそう問うている間に、クラウドはリーブの返事を待たずにクラウンの手から携帯を取り上げた。 雰囲気から、リーブがクラウドと代わる事を渋っているのを察したからである。 「リーブ!!どうなってるんだ、ティファは……ティファは無事なのか!?」 『え…クラウドさん!?』 突然響いてきたクラウドの声に、リーブがうろたえているのが分かる。 しかし、ティファの事で頭が一杯のクラウドに、それは些細な事でしかない。 苛立たし気に、 「そっちの状況はどうなんだ!?」 と、畳み掛けるように問いただす。 携帯の向こうから、リーブの呆れたような苦笑が漏れ聞えたのは、クラウドの気のせいだろうか……? 『まったく……本当にあなた達二人は…。まぁ、いいです。今の状況ですが、ティファさんが『角』を持ってドラゴンを誘導してくれています。これまでにも、他の皆さんが代わる代わる遺産を持って囮になってくれていたのですが、段々ドラゴンの力がしっかりしてきたようで……遺産を持っていられる時間が短くなってきたんですよ…』 「おい……どういうことだ……!?」 『そのままの意味です。ドラゴンが『角』を持っている人物に『空気』の攻撃を仕掛けるのが早く……しかも的確になってきたんですよ…』 リーブの言葉に、クラウドは絶句した。 WROの局長からの報告だと……。 ・ドラゴンは『空気』を操るらしいが、その力自体はあまり強くなかった。 ・ところが、時間が経つにつれ、段々その『力』を操るのが上達してきた。 ・その為、『角』を持っている人間に対する『空気』を操る特殊能力による攻撃が強くなってきた。 ・したがって、現在、噴出口に待機していた仲間達も総動員して、『角』を囮にドラゴンをライフストリームの噴出口に誘導する作戦に加わっており、全く余裕がない…。 ・ドラゴンは何かを感じ取っているのか、ライフストリームに近付くのを避けるように『空気』での攻撃を仕掛けてくる為、噴出口への誘導が難航している。 ・おまけに、ナナキを初めとして、最初に囮役を担っていた仲間達は、『空気』攻撃に対して明らかに疲弊しきっている為、非常にまずい状況にある…。 ・ちなみにティファが囮役になるのは三回目……。 という事だった。 囮役を一番多く担ったのは、ナナキの五回。 ナナキが仲間の中で一番の俊足だと言う事が理由に上げられる。 その次が、ヴィンセントの四回。 さらにその次が、ティファとユフィの三回だった。 シドは一回。 ちなみにバレットは一回未満……。(何故一回未満かと言うと、ヴィンセントがバレットに遺産を渡そうとしたが、バレットの足が遅くてドラゴンに危うく奪われそうになったのをナナキがキャッチした為だった…) クラウドはリーブの報告に顔を蒼白にさせた。 携帯を握り締めてわなないているクラウドから携帯をあっさり取り返したクラウンが、呆然としているクラウドの状況をリーブの伝えているのがぼんやりと聞えてくる。 それでも、その報告に対してクラウドは異議を唱える力など微塵も無かった。 頭の中は、現在ドラゴンの攻撃から身をかわしつつ、ライフストリームの噴出口に向かっているティファで一杯だ。 「では、今から目標地点に降下します。局長はそのままドラゴンの動きを教えて下さい」 ピッ…。 クラウンが携帯を切り、固まっているクラウドに向き直った。 「クラウドさん。ショックなのは分かりますがすぐに現場に向かいます。大丈夫ですか?」 「…………」 「あの……ダメならこのままシエラ号に収容してもらえるうよう、シエラ号の副操縦士にお願いしないといけないのですが…」 躊躇いがちに…それでも明らかな確信を持ってクラウンがクラウドに話しかける。 予想通り、呆けていたクラウドがガバリとクラウンに向き直って食って掛かった。 「…!?なに言ってる!大丈夫だ!!」 その反応に、クラウンだけでなく他のWROの隊員達も苦笑すると、それぞれ自分のパラシュートを身につけた。 クラウドは、「そうですか。それは良かった」と、あっさり納得した隊員の思惑通りに事が運んだ事を知り、何ともバツの悪い思いをしたが、それでもクラウンのお陰で自分を取り戻した事には感謝した。 眼下に広がるミディール地帯の孤島では、奇妙に木々が倒れているのが肉眼でも確認出来る。 その木々が倒れている先に…。 銀色に輝く巨大なモンスターの影がチラチラ見え隠れしていた。 『あの先に……ティファがいる……』 クラウドは逸る心を抑えながら、クラウンを見返した。 クラウンは他の隊員とは違い、パラシュートを身につけていない。 そのままクラウドを見つめ返すと、 「じゃ、良いですか?」 と小首を傾げてきた。 「……え……?」 その仕草に、クラウドは面食らう。 他の隊員達も同様だった。 それぞれ、手際よくパラシュートを身に付けていたのだが、クラウンの言葉を耳にして一様に固まっている。 己を凝視している視線を全身に受けながら、褐色の肌をした青年は無表情のままサラリと口を開いた。 「いえ、心の準備が良いのなら降下しますが…」 「……お前……パラシュートは良いのか……!?」 「あ、そのことですか。良いんです、俺は。それに、『空気』を操るモンスターと対峙しなくてはならないのなら、パラシュートは逆に命取りになります」 その言葉に、パラシュートを取り付けていた隊員達がハッとしたが、その隊員達に向かって、 「あ、皆はそのままパラシュートを着けて降下して下さい…と、局長から指示を受けてます。パラシュートを装着しないで降下して無事だと確信出来る人は別ですが…」 クラウドは呆気に取られて青年を見た。 WROの隊員達は気まずそうにしながらも、誰一人パラシュートを外そうとしない…。 それを確認してクラウンは再び口を開いた。 「では、皆さんはパラシュートにて降下して下さい。そして、すぐに英雄の皆さんのサポートの為に合流。通信はオンにして下さいね。それから、リーブ局長からの厳命ですが『無理せず、危険を察知したらすぐにその場を放棄し、己の命を守るように』との事です。あ、ポーションなどの回復アイテムはちゃんとありますよね?」 隊員達が表情を緩めて頷いたのを見て、クラウンは敬礼して見せた。 「では、後ほど」 「「「「「はっ!」」」」」 敬礼を解いてクラウドに向き直る。 「クラウドさん、今更ですがパラシュートはご入用ですか?」 ポカンとそれらの一部始終を見ていたクラウドに、クラウンがこれまたあっさりと問いかける。 クラウドは吹き出した。 「本当に今更だな…。いい……この高さなら必要ない」 「そうですか、良かった」 言葉とは裏腹に、全く心配していなかったクラウンは助手席に乗っていた隊員から通信機を受け取り、それをクラウドに手渡した。 イヤホンを耳にねじ込み、通信機を胸ポケットにしっかり押し込む。 準備が整ったクラウドを見て、クラウンが助手席の隊員に合図をしつつクラウドに声をかけた。 「では……行きますよ?」 「ああ!」 クラウンの合図を受け、ヘリのドアが開かれる。 勢い良く吹き込んでくる風に、顔を顰めつつもクラウドは怯んだりしなかった。 勿論、褐色の肌をした隊員も…。 目指すは夕陽に輝く体躯をちらつかせているシルバードラゴン。 ふと前方の空に視線を移すと、夕陽に染まる空にシエラ号が浮かんでいるのが見えた。 そのシエラ号に…子供達が乗っている…。 『二人共……心配してるだろうな……』 きっと、ドラゴンの脅威に曝されているティファの身を案じて、小さな胸は張り裂けんばかりになっているだろう。 『すぐに…二人の所に帰って見せるから…。ティファと一緒に…!』 心の中でそう語りかける。 そして…。 「では、行きます!」 クラウンの声と共に、クラウドは身を空中に躍らせた。 全身で風を受けながら急降下する。 クラウドは、『クラウド!』『頑張れ!!』という子供達の声援を通信機で受けながら、大樹の枝に腕を伸ばし……軽やかに着地した。 緩みそうになる頬を引き締めつつ、遥か前方を走るシルバードラゴンを睨みつける。 クラウンがすぐ傍の大樹の枝に、ストン…と着地したのが視界の端に映った。 そして…。 二人は無言のまま枝から枝へ、跳躍しつつドラゴンへ向かって行った。 ― ティファ! ― 木々のこすれる音と、風の音。 そして、己の心臓の音が耳につく。 クラウドは己の持っている力の全てを搾り出してドラゴンへ向かって跳躍を続けた…。 あとがき はい……あと少しで完結……予定です……(いや…どうかな…)。 もう…全然クラティ要素無くてすいません。 次回は……どうかなぁ……(苦笑)。 ではでは、次回をお待ち下さいm(__)m |