思いがけずに一人旅 18ドンドンドンドン!!!! 立て続けに発砲された銃弾に、ドラゴンは苦悶の咆哮を上げて大きく仰け反った。 そのドラゴンの目と鼻の先で、ヴィンセントが左頬から一滴鮮血を垂らしている。 ドラゴンの鋭利な爪が、ヴィンセントの首を狙ったのだ。 それを紙一重で避けたヴィンセントに、ドラゴンが次の攻撃を仕掛けようとしたが、ほんの僅かだけクラウド達の攻撃が早かった。 その一瞬の差が、ヴィンセントの命を救った。 ヴィンセントの補佐に回っていたユフィ達は、自分達の攻撃が全く通じないばかりか、ドラゴンが全く気を逸らせる事無くヴィンセントを襲い掛かった事に全身から血が引く思いがしたものだった。 「た、助かった……」 「よ、良かった……」 「はぁ……心臓に悪りぃ…」 あまりの心労によりその場にへたり込むユフィ達に、ヴィンセントが遺産を手にしたまま駆け寄った。 流石に体力のある彼も、息を切らせている。 「おい、今のうちにWROの隊員達から回復アイテムを受け取るぞ」 そう言い捨てて、さっさと隊員達の元へと駆け出してしまった。 隊員達のベージュの隊服が、遥か前方の木々の狭間から見え隠れしている。 「あ、ちょっと待ってよ!」 「……おいらも行こうっと…」 「あ〜…ナナキ、悪いけど俺の分も貰ってきてくれや…。ちょっと疲れて動けねぇ…」 「了解!」 慌ててヴィンセントの後を追うユフィと、それに従うように駆け出したナナキに、シドがへたり込んだまま声をかけた。 快く了承してくれた仲間に感謝の言葉を呟くと、シドは目の前で繰り広げられている戦闘にほとほと感心した。 全く自分達の攻撃が通用しなかったというのに、クラウン…?シュリ…?というよく分からないリーブの部下が登場してから戦局が一転してしまったのだから…。 クラウドとティファが不慣れなハンドガンを手にしてドラゴンと戦う姿は、これから先、きっと見る事は出来ないだろう…。 シドは場合が場合なので笑うどころではないはずなのに……。 妙に笑いが込上げてくるのを抑えられず、ニヤニヤとしまりの無い顔でドラゴン対三人の闘いを見物していた。 「おい……なに……笑って……やがるんだ……?」 地面に座り込んで見物しているシドの隣に、全身で息をしながらバレットがドサリと腰を下ろした。 「おいおい…バレット、大丈夫か…?」 バレットの疲労困憊振りに、呆れた顔をする。 浅黒い肌をした巨漢の男は、座り込んでからも荒い息を繰り返しながら、隣に座り込んでいる仲間をねめつけた。 「まったく……おめぇだって……へたってるじゃ……ねぇか……」 人の事言えるのか…? 言外に込められたその意味に気付いたシエラ号の艦長は、唇の端を持ち上げて肩を竦めた。 「ま、お前さんよりはまだマシだと思うけどよ」 「…はぁ…はぁ……ったく、言ってろ……この野郎…はぁ……」 「お前……本当に走るの苦手なんだな……」 いつまでも呼吸の整わないバレットに、シドは気の毒そうな顔をした。 「本当に凄いわね」 ハンドガンを撃ちながらティファが呟いた。 目の前のドラゴンの身体に、次々銃弾が命中する。 そして、そのダメージがハッキリと見て取れるのだ。 白銀に輝くドラゴンの全身に、被弾した部分が歪んだ渦状の模様を描き出す。 その渦状の傷からは、血ではなくエメラルドグリーンの光の粒子が飛散していた。 どう考えでも、この目の前のドラゴンは『生ある物』ではないだろう…。 その証拠に、被弾箇所が多くなるにつれ、段々ドラゴンの身体が薄っすらと透けてきたのだ。 ぼんやりとドラゴンの向こうにある木々が透けて見える。 ティファは弾の切れたハンドガンを片手に、悪足掻きをして尾をめちゃくちゃに振り回すドラゴンの攻撃を軽やかにかわした。 「シュリ君、弾切れなんだけど!」 ティファがシュリに叫ぶように呼びかけると、同じく弾切れになったらしいクラウドも手を上げて見せた。 丁度二人の真ん中辺りにいた青年が、胸ポケットとズボンのポケットから弾の入ったケースを取り出し、器用に二人に放ってよこす。 しかし…。 「……言い難いんだけど……銃弾の装填の仕方が分からないわ……」 「……………」 生まれて初めて手にした武器に、ティファは困ったような顔をした。 クラウドは神羅兵時代の経験からか、銃弾の装填方法を知っているらしい。 ぎこちない手つきではあるが、自力で弾を込めていた。 シュリは片手でドラゴンへ発砲しながら、もう片方の手をティファに差し出した。 「俺が装填しますから」 ティファは一瞬迷った。 発砲途中の彼に渡して大丈夫なのだろうか…? しかし、迷っている場合ではない。 ドラゴンはダメージを受けているとは言え、所詮そのダメージはハンドガン。 致命傷を与えるには威力が低過ぎる。 ティファはシュリの差し出した手に向けて、弾切れになった武器を放り投げた。 丁度その時、ドラゴンの尾がシュリ目掛けて振り下ろされ、危うく潰されそうになる。 それを、銃弾を装填し終えたクラウドが発砲してドラゴンの気を逸らし、白銀の尾はシュリの右肩を掠めて地面にめり込んだ。 シュリは寸でのところでティファからのハンドガンを受け取ると、逆に自分がそれまで使用していたハンドガンを放り投げた。 正確にティファの手の平に落ちてきたその武器を、ティファは無言で構えて発砲する。 苦しげなドラゴンの咆哮が、ミディールの孤島に響き渡った…。 「もう私達の出番って無いんじゃない?」 隊員達からの回復アイテムで元気を取り戻したユフィが、陽気な声を上げた。 それに対して、ナナキも嬉しげに尾を揺らす。 「そうだねぇ…。このまま円満解決してくれるかもね」 すっかり緊張の解けてしまった二人の仲間に、ヴィンセントが軽く溜め息を吐いた。 「まだ気を抜くのは早い。あの隊員が使用していた武器はただのハンドガンだ。ドラゴンの致命傷になるような攻撃は期待出来ないぞ」 ヴィンセントの正論に、ユフィとナナキが唸る。 「う〜……やっぱりライフストリームに落とすしかないのか…」 「おいら…なんかヤダなぁ……」 何とも情けない英雄達の姿に、隊員達は笑って良いものなのか、それとも黙って見守るべきなのか……。 判断に困ったようにチラチラと視線を交し合っていた。 ヴィンセントは渋面で、隊員達から余分に回復アイテムを受け取ると、そのまま無言で走り出した。 勿論、ドラゴンと対峙する為だ。 「ちょ、ちょっと〜!!」 「わわ…おいらも行くよ〜〜!!」 大慌てでヴィンセントの後を追う二つの影を、WROの隊員達は呆けたような顔をして見送った…。 そして、その中のリーダー格の隊員がリーブへ現状を報告したのは、丁度ヴィンセント達が回復アイテムをシドとバレットに渡した時だった。 「くは〜……生き返ったぜ」 「本当によ〜……」 ヴィンセントから回復アイテムを受け取ったバレットとシドが、何ともオヤジ臭い感想口にしていると、 『おい!回復したならいい加減、加勢に来てくれないか!?』 不機嫌なクラウドの声が通信機を通して聞えてきた。 「おいおい…お前は相変わらずクールで冷たい奴だな。こちとら今まで散々そのトカゲ野郎に手を焼かされたんだ。少しくらい休ませろ」 すっかり寛ぎモードに突入してしまったシドが、タバコに火を点けて「ふぅ〜…」と紫煙を吐き出した。 「そうだよなぁ。お前が来るまで俺達は苦労したんだからよぉ。攻撃は全然効かないし…。それに比べて、今は攻撃が効くような武器を持ってるんだろ?お前とその新しい隊員でなんとかなるんじゃないか?」 バレットが地面に座り込んだまま大きく伸びをした。 それに対してヴィンセントが何か言おうと口を開いたが、それを遮るように、 『ティファだってそうだろう!?』 クラウドが憤激して声を荒げた。 シドばかりでなく、通信機のイヤホンを耳に装着していた全員がその声量に顔を顰める。 特に、鼻ばかりでなく耳も良いナナキが「ヒッ!」と悲鳴を上げ、前足で耳を押さえて地面にへたり込んだ。 そして…。 久々に耳にしたクラウドの怒声に、英雄達は顔を見合わせて口元に笑みを浮かべた。 「あ〜あ…手のかかる奴だよねぇ」 「まったくだ」 「やれやれ。俺様は走るの好きじゃねぇんだけどよぉ…」 「俺ももう脚がパンパンだぜ…」 「ま、それでもさ…仕方ないよね…」 それぞれが、それぞれらしい感想を口にして、顔を引き締めた。 「そんじゃ…」 「行きますか!」 シドの言葉をユフィが継いで……。 英雄達は猛然と走り出した。 「……………」 「……………」 「……………」 シエラ号は一種の『沈黙』と言うものに包まれていた。 ある者はあんぐりと口を開け…。 ある者は苦笑し…。 またある者は恥ずかしそうに顔を赤く染めて俯いている。 「まぁ……皆、やらなきゃいけない事を思い出してくれたって事で……良いんじゃない…?」 重苦しい空気を払拭するべく、勇敢な少年が口を開いた。 通信機はオンになっている。 という事で、当然これまでの英雄達のやり取りはシエラ号にも筒抜け状態だったわけで…。 そのあまりにも『英雄』と謳われている人達のやり取りとは思えない言動に、クラウド達を詳しく知らない採掘作業員やWROの隊員達は強い衝撃を受けた。 特に、隊員達の衝撃は大きかったらしい。 自分達の上司・リーブは、普段穏やかな表情をしているが、ここぞと言う時には厳しく、そして冷静に状況を判断して指示を下してくれる。 そんな人物だからこそ、皆、命を懸けて隊員としての職務を全うしようと思えるのだが、そんな上司の仲間という『英雄』達も、上司同様、素晴らしい人達なのだと理想像を描いていた。 しかし、このたった今耳にし、目にしたやり取りは…あまりにも……。 『『『『俺(私)達と変わらない、極々平凡な人間なんじゃ……』』』』 そう感じざるを得ない。 理想と現実の差に、隊員達は何やら落胆した気分になるのだった。(← とっても失礼) 「そ、そうですね…。デンゼル君の言う通り、皆が本来の目的を思い出してくれて良かったですよ…」 乾いた笑いを上げるリーブの肩を、同情をこめてクレーズがポンと叩いた。 「クラウド……私は大丈夫だから……」 遺産を持っているヴィンセントが回復するのを待ち、ひたすらドラゴンを牽制している三人。 そのうちの一人、ティファは顔を赤くし、隣で同じく顔を赤らめているクラウドにボソボソと声をかけた。 三人の内、唯一表情を全く変えていないシュリは、今のやり取りを聞いてもやはりなんとも無いのか、ひたすらドラゴンへ向けて的確に発砲している。 銃弾は全て頭部に集中しており、ドラゴンの右目は既に撃ち抜かれていた。 にも関わらず…。 「やはり…時間が経つと治癒するらしいですね…」 ドラゴンの身体に穿たれていた渦状の傷跡が、古いものから消えていっているのが分かる。 ティファとクラウドは、赤らめていた顔を引き締めてドラゴンを見据えた。 今、目の前にあるのは白銀の薄っすらと透けているドラゴンと、そのドラゴンに踏み倒され、なぎ払われた巨木達の残骸。 薄っすらと透けていても、ドラゴンの破壊力は影響されないようだ。 白銀の尾が……鋭い爪が……なんの躊躇いも無く貴重な木々を傷つけていく。 その光景が何とも言えず、腹立たしい。 そして、それを食い止める事が出来ない自分達にも苛立ちを感じる。 「ヴィンセント、どうだ、少しは回復したか?」 クラウドの呼びかけに、『ああ、問題ない。もうすぐ合流する』と、実に簡潔な返答が返ってきた。 それを聞いたクラウドが、ティファと視線だけで笑みを交わす。 『では、そのままヴィンセントはライフストリームの噴出口へ向かって下さい。今ならドラゴンも『空気』による特殊攻撃が出来ない様なので、誘導に引っかかってくれるでしょう』 無線でのやり取りをしっかり聞いていたリーブが、すぐに指示を出し、仲間達とシュリが了解の返答をし、一向は噴出口へ向けて走り出した。 やがて、仲間達は次々と合流しヴィンセントが先頭に踊り出た。 その途端、ドラゴンは目の前で攻撃していたクラウド達三人から完全に気をそらせ、ヴィンセント目掛けて猛然と飛び掛った。 巨体が空を舞う。 シエラ号を追いかけて空を疾走したドラゴンなのだから、巨体が高く飛び上がってもなんら驚く事は無いのだが…。 その姿を目の前で…しかも肉眼で見ると改めてその優美で雄大な様に圧倒される。 勿論、その姿をのんびり観賞している暇など無い。 ヴィンセントは身体を空中で反転させると、無駄だと分かっていながら自分の銃で攻撃を仕掛けた。 キンキンキン…。 金属に撥ねかえされる様な無機質な音。 ヴィンセントは「チッ」と舌打ちをすると、軽やかに大樹の枝に舞い降りて、そのまま勢いを殺さず噴出口へ向けて足を速めた。 ヴィンセントの踵をドラゴンの鋭い爪先が掠める。 その恐ろしい光景を見ていた仲間達が「ヒッ!」と息を飲むが、当のヴィンセントは全くの無表情だ。 そして、そのギリギリセーフな光景に首を竦めなかった青年が、ヴィンセントに並んだ。 「ヴィンセントさん。これを使って下さい」 そう言うなり投げられた武器を、ヴィンセントは危なげなくキャッチする。 そして、チラリとドラゴンの位置を確認すると、躊躇わずに発砲した。 ドラゴンの苦悶の咆哮が轟き渡る。 左目に被弾したのだ。 両目の潰れたドラゴンは、それでもヴィンセントの位置が分かるのか、全く躊躇う事無く真っ直ぐヴィンセント目掛けて突進してくる。 「やはり、目だけで追っているのじゃないな。この遺産の存在を身体全体で感じている……そんなところか……」 誰に言うとも無く呟いたヴィンセントに、 「ヴィンセントさん、その遺産を少し貸して下さい」 シュリが事も無げにそう言った。 ヴィンセントは軽く目を見張って、隣を走っている漆黒の髪を持つ青年を見つめた。 強い意志を秘めたその青年の瞳に、ヴィンセントは口にしようとした数々の台詞を押し止め、無言のまま青年に向かって遺産を放り投げた。 『ちょ、ちょっと、ヴィンセント!』 ユフィの慌てた声が聞えたが、ヴィンセントはそれを無視すると、シュリにドラゴンが不用意に近付かないよう牽制攻撃を仕掛ける。 もうすぐライフストリームの噴出口に辿り着く。 それまで、何としてもドラゴンからこの遺産を奪われるわけにはいかない。 何やら、仲間達の『ったくしょうがねぇな…』『やれやれ』という呆れた声が聞えた気がしたが、それもヴィンセントは無視をした。 しかし意外な事に、クラウドとティファ、そしてリーブから抗議の声が上がらなかった事に関しては、ヴィンセントは関心を持った。 ― それだけ信頼出来る人間……って事か… ― ヴィンセントは隣を走っている青年に視線を投げると、柔らかな笑みを浮かべた。 一方、ヴィンセントから遺産を受け取ったシュリはと言うと…。 ポケットから取り出した折り畳みナイフをパチンと開き、走りながら実に器用に遺産の表面をこすり始めた。 カツカツ…。 ザリザリ…。 コツコツ…。 カツン…。 何かが遺産から剥がれ落ちる音が断続的に小さく聞える。 その間も、ドラゴンの追跡は勢いを緩める事無く続けられていた。 イヤ、正確にはシュリの手で、遺産から何かが剥がれ落ちる度にその威力を増しているようだ。 その感想は、決してヴィンセントの勘違いではないだろう。 現に…。 「ちょ、ちょっと……」 いつの間にか、自分の隣に並んで走っていたユフィが驚愕の為に目を見開いている。 ヴィンセントも思わず立ち止まってドラゴンを見上げた。 クラウドとティファ、そしてナナキとシド、バレットの順で自分に追いつく。 英雄達は呆然とドラゴンを見上げた。 何故なら…。 「おいおいおい……傷が全部塞がってるじゃねぇか…!!」 シドが唖然としながら声を上げた。 グオオオォォォォンンンン…!!!!! 薄っすらと透けていた身体も、今ではしっかりとした輪郭を取り戻し、潰れていた両目もカッと見開かれている。 狂気を孕んだ深紅のドラゴンの目が、シュリに……正確にはシュリの手にした遺産に注がれる。 途端に、ドラゴンが大きく裂けた口をカッと開いた。 「皆さん、伏せて!!」 シュリの声と、木々が目に見えない何かに切断されるのが重なった。 慌てて英雄達は、目に見えないドラゴンからの『空気』の攻撃をかわすべく、地面に伏せたり身を大きく仰け反らせる。 「シュリ!!」 赤い飛沫がクラウド達の視界を彩った。 右肩をスッパリ切られたシュリが、僅かに顔を顰めながら遺産を口に当てる。 そして…。 ブオオォォオンン…。 『角』の細い方を口にくわえ、息を吹き込んだシュリの手の中で、遺産が音を奏でた。 その音は、シュリの肺活量が多い為なのか、それとも元々がそういう『物』なのか…。 ミディールの孤島に大音量で響き渡った。 あまりの大音量に、皆が耳を塞ぐ。 それは、当然通信機をオンにしていたシエラ号でも同様で…。 「キャッ!」「うわっ!」「うへっ!!」 等々、シエラ号に乗り合わせていた者達は、様々な短い悲鳴を上げて、耳を塞いだ。 リーブは顔を顰めながら、それでもスクリーンから視線を外すという失態を犯す事無く、冷静に状況を見極めようと食い入るように見守っていた。 スクリーンでは、同じく耳を覆って蹲っている仲間達の姿。 右肩からの出血に全く関係なく遺産を吹き続けている部下の姿。 そして…。 「なんて事だ……」 リーブの呻きに、シエラ号に乗り合わせていた人間は我に返り、スクリーンへ視線を戻した。 その誰もがあんぐりと口を開けて驚きを隠せない。 「なに……あれ……」 「……ドラゴン……かな……?」 子供達が声を震わせる。 大人達は、そんな子供達に気を使ってやれるだけの余裕が無かった。 むしろ、子供達と同じ心境だ。 誰もが、スクリーンに映し出された映像を信じられない思いで見ている。 それは、孤島で奮闘していた英雄達も同様だった。 「おい……こいつは……」 「うへぇ……ヤバイっしょ……!?」 「うえ……おいら……気分悪い……」 「俺もだ……」 シド、ユフィ、ナナキ、バレットが気味悪そうに身を捩らせた。 クラウドとティファは言葉も無く立ち竦んでいる。 ヴィンセントは、ドラゴンと……いや、ドラゴンだったものと、シュリを見比べた。 青年が遺産を奏でた瞬間、ドラゴンはその原型がなんだったのか分からないほど、変化してしまった。 即ち…。 「これが……ジェル状……ってやつじゃない……?」 気味悪そうにそう評したユフィの言の如く、シルバードラゴンは白銀のドロドロとした粘液状の物体に変化してしまった。 粘液状に変化しただけならまだしも、その粘液状の中に透けて見えるものがある。 それが異様に気味が悪い…。 それらは…。 「ボーンビレッジ地帯で喰ってたモンスターかよ……」 シドが「うぇ…」と、えずきながらぼそりと呟いた。 「バカ野郎!ハッキリ言うんじゃねぇ!!」 すかさずバレットが抗議の声を上げる。 誰もがあまりの出来事に呆けている間も、シュリは遺産に息を吹き込み続けた。 しかし、その息が段々上がってきている事にクラウドは気がついた。 シュリは相変わらず無表情のままだが、その顔色は非常に悪い。 右肩からの出血は続いているようだ。 「シュリ、俺が代わる!」 抗うような視線を向けた青年の手から強引に遺産を奪うと、クラウドはシュリがしたように遺産に息を吹き込んだ。 その途端、シュリが顔を歪めてその場に蹲り、ティファが慌てて駆け寄って支える。 ヴィンセントは、持っていた回復アイテムを差し出したが、それをシュリが受け取る前に何かがアイテムを弾き飛ばした。 その場にいた全員がギョッとした。 驚いたクラウドは、思わず吹く事をやめてしまった。 回復アイテムを弾き飛ばした犯人。 その銀色に蠢くジェル状の怪物が、細く長く身体を変形させていたのだ。 英雄達は顔を見合わせると、次の瞬間猛然と噴出口へ向けて駆け出した。 ヴィンセントがシュリを担ぎ、ティファは持っていたハンドガンで攻撃をする。 クラウドは走りながら遺産を再び奏でるべく、息を吹き込んだ。 ブオォォンン…。 走りながら吹いている為、途切れがちになるその音に惹かれるように、怪物は英雄達の後を追った。 目的地であるライフストリームの噴出口まであと少し…。 あとがき ちょっと痛々しい表現が出ちゃいましたが……大丈夫でしょうか……(汗)。 あと二回で完結予定です……(多分)。 もう少々お付き合い下さいませm(__)m |