思いがけずに一人旅 3クラウドが衝撃的な電話をヴィンセントから受けていた頃…。 ティファは一人、ジュノンの港にいた。 何故ティファが一人でここにいるのかと言うと、話は小一時間ほど前に遡る。 鳴らない電話を握り締めてカウンターに突っ伏していたティファに、突如として電話がかかってきた。 手の中で着信を告げる携帯に、おっかなびっくり取り落としそうになりながら通話ボタンを押すと…。 『ティファ〜!良い事思いついたんだ〜!!』 何ともご機嫌なお元気娘の声が響いてきた。 「良い事?」 『そ!悪い子にお仕置きする良い作戦〜♪』 「…………」 ウキウキと弾む口調のユフィに、イヤな予感がする。 こんな風に話を持ちかけてきた場合、『良かったこと』など一度もなかったのだから…。 きっと、今回のも『クラウドにお仕置き!』という名目の元、ハチャメチャな提案をするに決まっている。 本当なら即『却下!』と言うべきなのだろうが、何となくお元気娘の提案する作戦に興味を持ってしまった。 普段ならそんな事にはならないのに…。 冷静になって考えられるようになったティファは、その当時を振り返って、 『私も…疲れてたのよね…』 と、しみじみ溜め息を吐く事になる…。 『それで、クラウドにはちょこっとお灸を据えないといけないと思うんだ』 「……クラウドも疲れてたのよ。それなのに、私…考えが足りなかったの…だから」 『なに言ってんのさ!』 クラウドをフォローしようとするティファを遮って、ユフィが大声を上げた。 鼓膜が大打撃を受けてキーン……と耳鳴りを起こす。 『ティファは良く頑張ってたってデンゼルとマリンがそう言ってたよ!?それなのにあの分からず屋が勝手に怒ったんでしょう!?!?全く、人の気も知らないで大バカ野郎だよ、あの超鈍感・朴念仁男は!!』 携帯を耳から遠ざけて顔を顰めているティファの耳に、ユフィの甲高い声がキンキン響く。 あまりな言い様に、思わず口を挟みたくなったが、子供達までもが自分の事を心配し、そしてクラウドに怒っているというユフィの言葉に、ティファは口を噤むしかなかった。 子供達には悪い事をしてしまったのだから…。 朝から自分達の喧嘩を見せるという醜態を曝し、おまけに楽しみにしていた約束をクラウドは反故にしてしまったのだ。 子供達がクラウドに対して怒っても仕方ない…。 そして、それを防ぐ事が出来なかった自分にも責任がある…。 という事は……。 子供達も関与していると考えられるユフィの『作戦』とやらに乗る事で、少しでも子供達の気が晴れるなら…。 乗らなくちゃ…ダメだよね……うん! これまたユフィ以外の仲間とクラウド、そして子供達が知ったら驚きのあまりショック死するような決断を下したのだった。 何とも、一時間後のクラウドと全く同じ様な決断を下す辺りが似た者カップルと言うか…バカが付くほど真面目な二人である。 「…それで…その作戦って?」 腹を括ったティファに、ユフィの満足そうな笑い声が耳に響いた……。 そして、現在。 指定された通りにティファはジュノン港にやって来ていた。 しっかりと二人分の『コスタ・デル・ソル』行きの船のチケットを入手もした。 ここまではユフィの作戦通り……なのだが…。 「どこにいるわけ……?」 ティファは溢れ返る人混みの只中で、ポツンと突っ立っていた。 ユフィの作戦では、ここに一人の男性が待っているはずだった。 その男性は、ジュノンに配属されているWRO隊員。 リーブにユフィがお願いして(強引に)隊員を一人案内人として待たせている…との事だったのだ。 どこへの案内かと言うと…。 「コスタ・デル・ソルなら一人でも行けるわよ……?」 『ダ〜メ!ティファは女性なんだから、いくら腕っ節が強くても一人で旅なんかさせられないよ!それこそ、偏屈男が知った時に逆ギレされちゃうじゃん!!』 「でも…コスタまでなら船に乗れば勝手に着くじゃない…」 首を捻るティファに、デンゼルの声が突然聞えてきた。 『ティファ、いいからさ。そのまま隊員の人と一緒にコスタに行ってよ』 「あれ?デンゼル??」 『うん。だってさ〜、やっぱりティファ一人で船旅って心配だし』 「心配って…そんな大袈裟な…」 苦笑するティファに、マリンの声が聞えてきた。 『ティファ、マリンだよ。あのね、ティファって最近クラウドに付き合ってほとんどゆっくり出来て無いでしょう?だから万が一…って思っちゃうの。ね?お願いだから隊員の人と一緒にコスタに行って?そうしたら、私達も安心出来るし…』 可愛い息子と娘にそこまで言われて、ティファが断れるはずも無い。 ユフィの言う通り、そのWRO隊員とやらとの待ち合わせに来ているのだが…。 「どこにいるわけ?」 周りを見渡しても、それらしい隊員服を着た男性はいない。 本当なら携帯でユフィなりリーブなりに連絡を取れば良いのだろうが、携帯はユフィの指示で電源を切っていた。 『クラウドにお仕置きするには、携帯の電源を切っとかないと意味が無い!!』 との言葉に逆らう事も出来ず、ティファの携帯は電源が落とされていた。 電源を入れても良いのは、無事にコスタに着いてから…。 それまで後約一時間もある…。 という訳で、ティファは仲間と連絡が取りたくても取れない状態だった。 公衆電話はあるのだが、それも使えない。 何しろ、一々仲間の携帯の番号まで覚えていないのだから…。 携帯に入力してある番号を調べればすぐに分かるが、もしもその調べる為に電源を入れた一瞬の合間にクラウドから電話がかかってきたら…。 そう思うと、それすら出来ない。 自分としては、一刻も早くクラウドの声が聞きたいのだから、むしろ携帯に彼から電話がかかってきた方が嬉しいのだが、一度ユフィの計画に乗ると約束してしまった以上、それを違える行動は出来ない。 「はぁ……」 何となく今更ながらユフィの計画に乗ってしまった事が悔やまれる。 そのまま船のチケット売り場の入り口で途方に暮れていると、 「あの、すみません。ティファさんですか?」 突然、見知らぬ男性から声をかけられた。 振り返ると、そこには…。 彫りの深い顔立ち、褐色の肌をした痩身の若い男性が息を切らせて立っていた。 パッと見た感じ、女性の大半が目を奪われる容姿をしている。 「え…、あ、はい。そうです」 「すいません、遅くなりました」 深く頭を下げるその男性に、ティファも慌てて頭を下げた。 「えっと…それじゃあ、アナタが…?」 「はい。リーブ局長からの指示で、ティファさんをコスタまで護衛する事になりましたクラウンです。よろしくお願いします」 再び頭を下げるその青年に、ティファも慌てて頭を下げた。 そうして二人揃って顔を上げ、どちらからともなく笑みをこぼす。 「じゃ、もうそろそろ乗り込むみたいなので行きましょうか?」 ティファの荷物を当たり前のように持ち、歩き出した青年に慌てて追いかける。 「あの、荷物持ちますから」 「ああ、良いんです。これも何だか良く分かりませんが『命令』ですから」 「へ……?」 青年・クラウンの言葉に、ティファは目を丸くした。 一方、こちらはヴィンセントからの衝撃的な電話から漸く立ち直ったクラウド…。 彼は今、ジュノンに向けて猛スピードで走っていた。 呆けていた時間が思いのほか長かったらしい…。 もしもヴィンセントの言う通り、ティファが真っ直ぐジュノンに向かったのだとしたら、もうそろそろ午後一番の船が出港する時間だ。 舌打ちしたい気分になりながら、クラウドは愛車のアクセルを全開に、荒野を駆けていた。 焦燥感に駆られながらも、頭の中はティファの怒った表情でグルグル渦巻いている。 『何て言って謝ったら良いんだろう……』 気の利いた台詞が一つも思い浮かばない。 そんな状態のまま、いざ怒っている(← 思い込んでます)彼女を目の前にした時に、何と言えば良いと言うのか? ・今朝は悪かった…。 ・やっぱりティファが言う通り、疲れてたみたいだ…。 ・朝言った事は本心じゃないから…。 ・海よりも深く反省してます…。 ・ティファに嫌われたら生きていけない…。 …………。 ダメだ…。 どれもこれも……どこかうそ臭い…。 しかも…。 これでもかって言うくらい…恥ずかしいじゃないか!!!(特に最後の二つ) 想像するだけで全身に鳥肌が立つそれらの台詞に、クラウドは心底自分の不甲斐なさに溜め息が出た。 悩みながらもフェンリルはジュノンに近付いている。 そうして、自分の気持ちと何の決着もつかないままクラウドはジュノン港に辿り着いた。 配達の時には、そのまま愛車ごと船に乗り込むのだが、今回は流石にそういうわけにはいかない。 とにもかくにも、一番にしなくてはならないのはティファと子供達がここに来ているかを調べなくては ならないのだから。 一先ずクラウドは、乗船名簿を見せてもらうべく、窓口に並ぶことにした。 しかし…。 ― ピンポンパンポ〜ン ― ただいまより、午後一番の便が出港いたします。 まだ乗船されていないお客様は、大至急ご乗船されますよう、お願い申し上げます ― ピンポンパンポ〜ン ― クラウドは本日何度目かの眩暈に襲われた。 このままだと、乗船名簿を見せてもらう以前に自分自身が乗船出来ないではないか!! おまけに、こう言う時に限って窓口は恐ろしいくらいに混んでいる。 ノロノロとしか進まない順番に、クラウドのストレスはあっという間にMAXになった。 しかし、だからと言って順番抜かしをするわけにもいかず……。 ボーーーッ! 無情にも出港の汽笛が鳴った…。 遠ざかる意識の中、クラウドはつくづく自分の行いの悪さを呪うのだった…。 「ところでさ〜、ちゃんとクラウドはティファに会えたかねぇ」 こちらは所変わってシエラ号。 のんびり甲板で風を受けながら、ユフィがニシシと笑う。 いつもなら乗り物酔いでへばっているお元気娘は、自分が中心になって立てた計画に二人が乗ってくれたので、有頂天になっていた。 そのお陰か、乗り物酔いもなりを潜めている。 そのお元気娘の隣では、セブンスヘブンの看板娘が心配そうに溜め息を吐いていた。 「はぁ…大丈夫かなぁ…二人共…」 「そうだよなぁ……」 自分の両隣から漏れる不安の声に、ユフィは小さな背中をパシパシとそれぞれ叩く。 「大丈夫だって!このユフィちゃんの立てた計画に間違いは無い!」 胸を逸らして言い切るユフィに、マリンは「そうじゃないの…」と暗い声で答えた。 「そうじゃなくて…。クラウドもティファも、ここって言う時に絶対アクシデントに襲われるから…」 「そうなんだよなぁ。俺達が今まで二人の為に無い書に計画立てた時だってさ〜。ぜ〜ったいに邪魔が入ってさ〜」 「そうそう。それで、結局二人共、私達に気を遣って二人きりになれないで、時間を過ごす事になっちゃったんだよねぇ」 「もう…数えるのもバカらしいよな……」 「うん……」 「本当に……二人共…ちゃんと二人揃ってコスタに行けてるかなぁ……」 「仮に二人揃ってコスタに行けてなくても良いから、とりあえずクラウドが『ティファと他の男が一緒にいる』場面を目撃してくれてたら……」 「後は上手く行くと思うんだけど……」 「でも…なんか…妙な胸騒ぎがする…」 「そうなんだよなぁ…。なんか嫌な予感がするんだよなぁ……」 「「はぁ……」」 重苦しい溜め息を吐く子供達に、ユフィも流石に不安になってきた。 確かにあの二人は何故かトラブルを呼び寄せる何かを持っている…気がする。 おまけに今回は自分の立てた計画の中に、 【クラウドにティファがいかに必要かを自覚させよう!!】 という、わけの分からないような目標も掲げていたので、その目標達成の為に少々『お芝居』も演出するようになっていた。 ・ティファが子供達と一緒ではなく、知らない男と一緒にいるのをクラウドが目撃する。 ・それを見て、自分にとっていかにティファが大事な存在だったのかを知る。 ・動揺しつつも、それでもティファとその男の前に立ち塞がるクラウド。 ・そのクラウドにティファがびっくりする。 ・その時、事情を知っているWRO隊員がきちんと説明をする。 ・照れながらも、お互い必要な存在だと再確認する二人…。 ・コスタでゆっくり二人の時間を過ごし、心身共にリフレッシュ♪ ・そうして最後は二人で仲良くボーンビレッジに来て、心配かけた皆に笑顔で謝罪! 以上が、ユフィの立てた計画だった…。 勿論、この内容はティファには内緒。 知られたら当然、猛反対に合うのが目に見えている。 仲間達も一応反対したのだが、結局は自分の意見に賛成してくれた。(正確には、強引に押し切って話を進めた為、仲間達が口を挟む隙がなかっただけの話し…) 「ま、まぁ。仮にティファとクラウドがジュノンで一緒にならなくても、コスタに行きさえすれば大丈夫だって」 気を取り直してそう言うユフィに、子供達はどこまでも不安そうな顔をしている。 そして、マリンはユフィの反対隣に座っているヴィンセントを見上げた。 「ねぇ、ヴィンセントさん。本当に上手くいくと思う?」 「……………」 「…やっぱり…ダメかなぁ…」 「…………奇跡を祈ろう…」 遠い目をしてボソッと呟いた寡黙な仲間に、お元気娘が「なにさ〜!デンゼルとマリンだってノリノリだったじゃん!」「ヴィンセントがもっと自然に上手く話してくれてたら…!!」等々抗議の声を上げたが、寡黙な青年は聞えないのかボーッと流れる雲を見つめている。 先程のクラウドとの電話のやり取り以降、ヴィンセントはずっとこの調子だった…。 よほど彼には厳しい試練だったらしい……。 元々口下手でウソが苦手で人付き合いが超苦手なこの青年にとって、ユフィの立てた計画をクラウドに『さりげなく』伝える事がどれ程の疲労を伴うものだったのか……。 デンゼルの隣に腰を下ろしていたナナキが、気の毒そうにチラリと視線を流して皆にバレないようにそっと溜め息を吐いた。 「それにしてもさ…。あと一時間はティファと電話出来ないって…ちょっと辛いよなぁ…」 ぼんやり雲を見つめながらデンゼルがこぼす。 「そうだよねぇ。ちゃんとクラウドと会えたかどうか確認出来ないし…」 体育座りをし、両膝に顎を乗せてマリンが同意する。 「しょうがないじゃん!もしかしたらクラウドがティファに電話しちゃうかもしれないでしょう?そんな事されたら、クラウドにお仕置き出来なくなるじゃんか!」 プク〜ッと頬を膨らませるユフィに、ヴィンセントとナナキは溜め息を吐いた。 『『デンゼルとマリンよりも幼く見えるユフィって……』』 寡黙な青年と赤い獣は、同時に深い溜め息を吐いた。 そして…。 まさに子供達が不安に思っている事態に陥っていたのだった…。 「クラウンさん!!」 ティファの隣で甲板の柵に寄りかかっていたクラウン隊員が、突如、海に飛び込んだ。 甲板は騒然となり、女性客の悲鳴が響く。 その中でも一際甲高く悲鳴を上げ、今まさに飛び込もうとする女性がいた。 その女性を、周りの客達が必死になって止めている。 女性は、何人もの人に押し止められながらも必死になって振りほどこうとしていた。 「子供が!子供がーー!!!!」 ギョッとしてその場の全員が海を見る。 今では後方に見えるその水面に、カーとの頭と子供と思しき頭が浮かんでいた。 子供がふざけている内に、柵から身を躍らせて海に落ちたのだ。 それに気づいたクラウン隊員が、咄嗟に海に飛び込んだらしい。 「早く!誰か船員に知らせないと!!!」 「あ、今知らせに行ったぞ!!」 「あー、ダメだ、潮の流れが速過ぎて流されてる!!!」 「おい、救命浮き輪…ダメだ、遠過ぎて届かねぇ!!」 「とにかく船を止めろ!」 「救命ボートはどこだ!?」 騒然とする甲板の上をティファは船尾まで駆け、大きく身を乗り出した。 既に、二人の姿は豆粒のようにしか見えない。 それでも、クラウンはしっかりと子供を抱きかかえているようだ。 「クラウンさん!!!」 ティファの叫び声が虚しく海に吸い込まれる。 そして…。 とうとう二人の姿はティファと甲板にいた乗船客の視界から消えてしまった…。 子供の母親の泣き叫ぶ声が響く。 船員達が慌ただしく甲板に駆け上がってきた。 そうして…。 船内アナウンスが流れた。 『ただいま、事故が起こりました。暫く停船致しますので、お客様はどうぞ、船内にお戻り下さい。お急ぎの中、大変申し訳ありません』 ティファは船員達に促され、仕方なく船内に戻った。 子供の母親も、泣きながら船員に抱えられるようにして船内に促されている。 船内に入る前、視界にチラリと救命ボートが海に下ろされる光景が映った。 しかし、そこまででティファの視界には沢山の人で覆われてしまった…。 長い時間が経った気がする。 まんじりともせずに待っていたティファの耳に、再びせん無いアナウンスが流れた。 『お待たせしました。只今より再出航致します。皆様、どうぞ船の旅をお楽しみ下さいませ。また、先程の事故に関しましては、ジュノン港より救助船が出され、無事に保護されたとの報告を受けましたので、どうぞご安心下さい』 歓声が起こる。 子供の母親は既に船長室かどこかに連れて行かれていた為、姿は見えなかったが、さぞ安心した事だろう。 ティファは心から安堵の溜め息を吐くと、そこでハッと気がついた。 「………結局……一人でコスタに行くのね……」 本当に…。 世の中自分の計画通りに事は運ばないものなのだなぁ……。 そうしみじみ感じる、セブンスヘブンの店主だった…。 あとがき 結局一人旅をするのはティファになりました(笑)。 ジュノンに置き去りにされたクラウド。 そして、任務を遂行出来なかった隊員はどうなるのでしょう……。 次回までどうぞお待ち下さいませm(__)m |