思いがけずに一人旅 7




「ふえぇぇぇぇ……お母さ〜ん……」
「いや…だからこれからお母さんの所にちゃんと送るから…」
「うっうっうっ……」
「本当に大丈夫だから…」
「ひぃっく…」
「俺も怒ってないし…。ちょっと仕事が忙しくて疲れてただけで…シャインちゃんには全くもって、全然怒ってないから…」
「うっく…」
「だから…な?一緒にコスタに行こう…?」
「ふっく……」
「一緒に行って…くれると、とても嬉しい…んだけど…な…」
「えっく…」
「だから……俺と…仲良くしてくれる…かな…?」
「…………うん……」
「……はぁ……良かった………」

 どうにかこうにか、必死になって謝り続け、宥め続け、時にはお願いしつつ引き攣った笑みを浮かべたり…と、涙ぐましい努力の結果、クラウドは少女を泣き止ませる事に成功した。
 もっとも、今の状態は泣き止んだばかりで、いつまた『大雨』が降るか分からないのだか、それでもはぎこちない自分の笑顔に、シャインもぎこちなく笑い返してくれるところまでこじつけた。
 周りで温かく見守っていた人達にも笑顔が浮かぶ。(クラウドにとっては全くあり難くない……)

 しかし…。
 今回の件でつくづく我が家の子供達がいかに優れていたのか身に染みた。


 そうだよな…。
 普通は子供ってこんな風に癇癪起こしたり、泣いたり、怒ったり……。
 自分の心に対して素直だよな…。
 それなのにデンゼルもマリンも、子供らしく駄々をこねたり、泣いたり、怒ったりってあんまりした事ない…よな…。
 勿論、怒る事もあったり泣いた事もあったけど、それでもこの腕の中の少女の様に『子供らしい子供』の顔を見せた事があっただろうか…?
 もしかしたらティファには見せているかもしれないが、それでも癇癪を起こしたり、我がまま言ったりした事が今までにあったなら、ティファは自分に知らせてくれただろう…。


 クラウドはそんな当たり前の子供の表情・姿を目の当たりにする事によって、改めてデンゼルとマリンにどれ程『子供らしい子供』の姿をさせてやる事が出来ていなかったかを痛感した。

 今朝の自分の失態からこっち、わずか数時間しか経っていないのにこんなにも自分の至らない部分が見えてきた。
 クラウドにとって、それは苦く、辛い事だがそれでも決してマイナスではないはずだ。
 むしろ、これから家族と共に生きていく為には必要な気付きであったと思える。

「本当に……まだまだ未熟者だよな…」
 苦笑を浮かべたクラウドを、シャインが涙で濡れた顔をキョトンとさせながら見上げ、クラウン隊員がうっすらと笑みを浮かべて見つめた。

 と…。

 ピピッピピッピピッピピ…。

 クラウドの物ではない携帯音。
 クラウン隊員が上服のポケットから携帯を取り出した。
「はい、クラウンです。………そうですか、自分もその意見に賛成です。………はい、その予定です。……はい、今のところは問題ありません。ただ、乗船時刻なのですが、あと二時間も後なのです。……ええ、………え!?」
 驚いて声を上げ、チラリとクラウドを見てすぐに視線を逸らす…。
 そんな青年の態度に嫌な予感がクラウドの胸をよぎる…。
 胸一杯に広がりつつある不安を抱えたまま、電話をしている隊員の表情をジッと見つめる。
 そんなクラウドの視線に、クラウン隊員は気付いているであろうにどこまでもポーカーフェイスを貫いた。
 そして……。

「はい、了解しました。クラウドさんにそう伝えます。はい、では失礼します」

 ピッ。


 暫しの沈黙。
 クラウン隊員は携帯を切ると、そのまま数回深呼吸をした。
 その彼の様子に、クラウドは聞きたくない報告を聞かされるのだとイヤでも察する。

 ゆっくりと青年が自分へ顔を向ける。
 何か言おうと口を開く。
 それらの動作がひどく緩慢に見えたのは……気のせいだろうか……?



「クラウドさん…。非常に申し上げにくいのですが、シャインちゃんをゴンガガ村まで送り届ける事になりました…」


 クラウドは本日何度目かの眩暈に襲われた…。



 そもそも。
 どうしてシャインをクラウドとクラウン隊員がゴンガガ村まで送り届けなくてはならないのか…?
 正直言うと、そこまでしてやらなくてはならない義務も義理もない…。(と言うのが、クラウドの本音)
 しかし、そうも言っていられなくなった……とは、リーブから指示を受けたクラウンの言葉。

「シャインちゃんのお母さんが、どうしてもシャインちゃんを待っていられない状態らしいんです」
「おい……自分の子供を…しかもこんなに小さな子供を置いて帰省する母親ってどうなんだよ…!?」
「クラウドさん…シャインちゃんが聞いてます…」
「あ……」

 クラウン隊員の言葉に、クラウドが声を荒げる。
 その彼の胸には、まだ幼い少女がしっかりと抱かれていた。
 シャインの大きな瞳に、再び透明の雫がみるみるうちにあふれ出す。

「あぁ…っと、何でもないんだ、大丈夫だ。心配いらないから…」
「…おかあ、さん……待ってくれて、ないの……?…っく……」

 嗚咽を漏らし始めた少女に、クラウドの顔面にびっしりと汗が噴出す。
 折角泣き止んでくれたのに、また『大雨』が降りそうだ。
 しかも、またもや自分のせいで……!!

 しかし、今度はクラウン隊員が『泣き止ませる』役を買って出てくれた。
 クラウドの腕からそっと少女を抱き上げる。
「お母さんはおばあちゃんとおじいちゃんの所で待っててくれるよ」
「うっく…でも……お船で着いても…っく……すぐに…ひっく…会えない……?」
「うん…そうなっちゃうんだけど…」
「ふ、ふえぇぇぇぇ……」

 ボロボロ涙をこぼし始めた少女を優しく抱きしめると、自身の身体を揺らしながら小さな背中をポンポン叩く。

「おじいちゃんとおばあちゃんが、お母さんに早く会いたいってお電話があったんだって。それで、お母さんは先に行く事になっちゃったんだよ」
「えぇぇん…!」
「大丈夫だよ。お母さんも本当はシャインちゃんと一緒に行きたかったんだよ。でもね、お車の時間がどうしても間に合わなくてね」
「ふぅぅぅう……!」
「だから、先にお母さんが行く事になったんだ。ほら、おじいちゃんとおばあちゃんは、お母さんしか子供がいないだろう?」
「ふぅううっく……うん……」
「だから、早くお母さんに来てもらって、元気が欲しかったんだよ」
「……おかあさん……行ったら……おじいちゃん…と、おばあちゃん……元気に…なる…?」
「うん、そうだよ。おじいちゃんとおばあちゃんは今、お体が悪いだろう?お腹が痛かったり、頭が痛かったりしてるだろう?」
「……うん…」
「でも、お母さんの顔を見たら、お腹や頭の痛いのが治っちゃうんだよ」
「………どうして…?」
「それは、シャインちゃんと同じだよ」
「ふえ…?」

 ゆっくりと優しくあやしながら、分かりやすい言葉で…安心出来る口調で話すクラウン隊員に、いつの間にか少女の瞳から涙が消えた。
 そうして、青年の肩口に押さえつけていた顔を上げる。
 吸い込まれそうな真っ直ぐな子供特有の瞳に、クラウン隊員が始めて自然に優しく微笑んだ。


「シャインちゃんと同じ位、おじいちゃんとおばあちゃんがお母さんの事を大好きだからだよ」
 シャインちゃんは、お母さんの事、大好きだろう?


 そう顔を覗き込むようにして尋ねる褐色の肌をした青年に、少女はパッと笑顔を見せた。
「うん!だ〜い好き!!」

 その少女の笑顔と青年の微笑む姿に、クラウドだけではなく周りで見ていた乗船待ちの人達皆が思わず息を飲んだ。
 あまりにもその光景が優しくて……遠い日に無くしてしまったかつての幼かった頃を頃を思い出させるものだったから…。

「だろ?だから、おじいちゃんとおばあちゃんは、大好きなお母さんが帰って来てくれたら、元気が出るんだよ。分かったかい?」
「うん!」

 すっかり泣き止み笑顔を取り戻した少女を、青年はもう一度軽く背中をポンポンと叩き、そっと下ろした。
 その姿は、まるで……。
「お父さんみたいだな」
 ポツリと呟いたクラウドに、青年は視線を少女からクラウドに移し、どこか照れ臭そうにしながら「何言ってるんですか」と、ふいっと横を向いた。

 その微笑ましい姿に、クラウドは本日初めて心が落ち着くのを感じた…。
 のだったが…!!!!


「って言うか…何で俺達がシャインちゃんを送らなくちゃいけなくなったのか、まだ聞いてないんだが……」


 肝心の話を思い出し、一気に現実に引き戻された。

 本当なら、一刻も早くティファに謝罪し、仲直りをしてボーンビレッジに向かわなくてはならないのに…。
 いや…もうこうなったらボーンビレッジに行けなくても構わない……ティファと仲直りさえ出来れば!!(← 本来の目的を完全に見失ってます)

 そんなクラウドにWROの若き隊員は言いにくそうに口を開いた。



「ティファさんがシャインちゃんのお母さんと一緒にゴンガガ村に向かってるんです」



 話はつい数十分前に遡る。
 クラウドとティファの心配をしながらも、珈琲を飲んで寛いでいたリーブにティファから電話が入った。

「はい、もしもし?」
『あ、リーブ?私…ティファ』
「はい。どうされました?」
『えっとね…。本当は少しでも早くそっちに行かなくちゃいけないって分かってるんだけど……』
「ああ、良いんですよ気にされなくて。こちらにはあと二時間もしないうちにシエラ号でヴィンセントさん達が到着する予定ですからね。クラウドさんとティファさんがいないのは確かに痛手になるでしょうが、それでも他の皆さんで十分対処出来ますから、ティファさんはクラウドさんとゆっくり…」
『あ〜、そうじゃないの…』
 何となく歯切れの悪いティファに、リーブは首を傾げた。
 てっきり、先程の電話の件に対して改めてお礼と、本当に遅れても良いのかの確認の為の電話だと思っていたのに、どうもそうではないらしい。
 首を傾げるリーブを、クレーズが怪訝そうに見つめる。
 その視線の先で、リーブが急にポカンと口を開けた。
 そして次の瞬間…。

「……ティファさんらしいですねぇ……」

 苦笑とも微笑とも取れる、何とも言えない表情を浮かべたのだった…。


「で…?何だって……?」
 携帯を切って大きく息を吐き出したリーブに、クレーズが待ちきれずに声をかける。
 WROの局長は、話を聞きたくてウズウズしているクレーズを見ると、
「ティファさん…ゴンガガ村に行くらしいです」
 やれやれ…と、首を振り振り肩を竦めた。
 クレーズは「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げ、手にしていたカップを落としそうになった。
 中身が少し残っていた為、作業服に珈琲の染みがじんわりと広がる。
 それを慌てて布巾で拭き取りながら、
「なんだってそんな話になるンだよ!?」
 そう詰め寄るクレーズに、リーブはティファの言葉を話して聞かせた…。





「本当に困りますよ〜…」
「そこを何とか…お願いします!!」
「そうは言われましても……」

 ふと目を上げると、船着場の方に何やら人だかりが出来ている。
 そして、必死に船着場の職員に縋りつくようにしている一人の女性。

「あ……」

 ティファはその女性を見て軽く目を見開いた。
 船から落ちた少女の母親だ。
 何やら頭を下げて頼み込んでいる。
 職員はそんな女性にほとほと困りきった顔をして、職員同士顔を見合わせていた。
 ただならないその光景に、人々が奇異な視線を向けている。
 ティファも何だか気になり、もたれていた壁から身を起こした。

 人の山に近付くにつれ、少女の母親が何かを必死になって頼み込んでいるのが分かった。
 そして、何故船着場の職員が困っているのかも…。
 ティファは苦笑を浮かべると、これも何かの縁だ……と、その問題の中心にいる女性に声をかけた。

「すいません」
 女性は、突然背後から声をかけられた事に…しかも若い女性の声だった事にびっくりして勢い良く振り向いた。
「あの…お話しを聞いてしまって…。それで、もし宜しければその…娘さんの事は私の…えっと、友人に話してみましょうか?」
「「「え!?」」」
 女性ばかりでなく船着場の職員も一斉に驚いて声を上げる。

 ティファは、驚き目を丸くする少女の母親と船着場の職員に、

 ・少女を助けた男性が、本当なら自分と一緒にコスタに向かうはずだったこと。
 ・少女が今も、その男性と一緒にいること。
 ・少女と一緒にいる男性が、自分の家族とも合流し、次の便でコスタに来る予定であること。
 ・ゴンガガ村へは一度行った事がある為、今回の件をジュノンにいる家族と青年に説明すれば、少女をコスタまで送ってくれるはずだということ

 等々を簡単に説明した。
 このティファの申し出は、双方にとってまさに天の助けだった。

 女性は感涙に咽びながら何度も「ありがとうございます、ありがとうございます!」とティファの手を握りながら頭を下げ、船着場の職員も「いやぁ、本当に助かりました」と心からホッとした顔を見せた。

 そうして…。
 ティファはリーブに電話をした。
 本当なら…。
 リーブではなくクラウドに電話をすべきなのだろう。
 しかし、彼の声を聞いてしまったら、一気に感情が溢れ出してどうにも止まらなくなってしまう。
 それに。
 謝るならきちんと顔を合わせて…彼の目を見て謝りたかった。
 なにより…。

「本当に……いくじなしなのよね…」

 自嘲気味に笑みを浮かべると、ティファはコスタ行きのセスナに少女の母親と乗り込んだ。
 次にコスタに船が着くのは、おおよそ三時間後。
 それまでの間に、自分の心にきっちりとケジメをつけ、彼と真正面から向き合おうと思っていたのだ。
 それが、自分から申し出たとは言え急に予定が大幅に変更してしまった。
 心の準備もなんにもない。
 そんな状態で、クラウドの声を聞き、きちんと話をする自信が全くなかった。
 だから、リーブに伝言を頼むような弱気な行動に出てしまった。

「いつになったら…成長出来るのかな…」

 ポツリと呟いた言葉に、隣に座っていた少女の母親が首を傾げた。
「あ、すいません。何でもないです」
 気恥ずかしくなって早口でそう言うと、母親も特に突っ込んで話かける事もなく、じっと膝の上に組んでいる手に視線を落とした。
 自分の両親の容態が良くないと病院から連絡を受けたばかりなのだから、無理もない…。
 ティファは気休めの言葉を口にする事無く、黙って女性の手をそっと握った。
 母親はそろそろと視線を上げると、泣きそうな顔をしながら弱々しく笑みを浮かべた。
 そのままティファも黙って柔らかく微笑むと、窓の外へ視線を移した。

 窓の外には二年前に見た懐かしい景色が眼下に広がっていた。
 定期的に運行しているセスナは順調に空を飛んでいる。
 その定期的なセスナも、二年前には存在しなかったものだ。
 ここでも、リーブの働きと世界の復興を願う人々の努力の結晶が現れている気がして、ティファは懐かしさと嬉しさで暫しクラウドへの罪悪感を忘れる事が出来た…。




「とにかく!!ティファとクラウドに計画がバレた以上、私達の取るべき道はタダ一つ!!」
 ユフィが陰鬱な顔をしている仲間と子供達の輪の中心に立って、ビシリと人差し指を立てた。
「二人が険悪な間は絶対にボーンビレッジに来させないこと!!!!」

 ユフィの高らかな宣言に対し、誰も何も言わなかった。
 その沈黙がユフィの案に賛成しているものではない事くらい、お気楽・お元気娘もすぐに分かった。
 分かったからと言って…。
「だって、しょうがないじゃん!!まさかリーブがバラしちゃうなんて思わなかったんだもん!!」
 拗ねたように唇を尖らせる。
「…あのな…。じゃあ一つ聞くけどよ。どうやってクラウドとティファがボーンビレッジに来ないようにするんだ?」
 もっともな質問をシドが口にした。
 その口調はこれ以上ない程投げやりだ。
 ユフィはそこで言葉に詰まるかと思いきや、ニッと笑って見せた。
 そして、大人達の輪から少し離れて事の成り行きを冷ややかに見守っていた子供達を指差した。
「デンゼルとマリンが『クラウドとティファが仲直りするまで顔も見たくない!!』って一言言えば一発だって!」
「え!?」
「俺達が言うの!?!?」
 びっくりして目を剥くお子様二人に、ユフィだけではなくシドとバレットまでもが、
「そうだな…それしかねぇぜ!」
「おう!デンゼルとマリンの言う事なら、いくら頭に血の上ったクラウドでも聞く耳を持つだろうよ!」
 と、すっかりその案に乗り気になっている。

「…それなら最初からややこしい計画なんか立てなかったら良かったんじゃ…」
「ナナキ……それは言うな……」

 ナナキとヴィンセントがボソボソとやり取りする中、デンゼルとマリンは顔を見合わせて「「はぁ〜…」」と深い溜め息を吐いた。
 呆れ返る子供達に、ユフィとシド、そしてバレットがにじり寄る。(シドが舵から手を離した為、慌ててすぐ傍にいたクルーが舵を取った…)
「ね?皆の平和の為に…皆の幸せの為に……!!」

「「「電話して〜〜!!!!」」」

 何とも情けない姿に、ナナキとヴィンセント、そして操舵室にいるクルー達がガックリと項垂れる。
 そんなみなの視線が集中する中、デンゼルとマリンは肩を竦めるとユフィの差し出した携帯に手を伸ばした。

 と…。

 ピピピ…ピピピ…ピピピ…。

 ヴィンセントの携帯が再び着信を告げた。



 あとがき

 ありえないほど不幸なアクシデントに見舞われているティファとクラウドですね(苦笑)。
 はい、これからどうなるのでしょう…。(← 一人旅はどうした!?)
 まだもう少し続きますので、どうぞよろしくお付き合い下さいませm(__)m

 *すいません。3/18に加筆修正微妙にしてます(汗)