思いがけずに一人旅 9




 シエラ号がボーンビレッジに到着して約十五分後…。

『ほ〜い、こっちは指示された所に着いたよ〜!』
『俺も着いたぜー』
『私もだ』
『オイラはもうすぐ……っと、はい、到着!』
『俺は……ゼハー……まだだ……ゼハー…』
「バレットさん、そんなに慌てなくて良いですからね…。では、皆さん。もう少しそこで待ってて下さい。今から十分後くらいを目処に遺物の検査を開始しますから。それよりも、何か異常はないですか?」
『ん〜、特にはないねぇ…』
『こっちも大丈夫だ』
『…こちらは……そうだな。私のいる木の下を雑魚モンスターがうろついてるが……特に数は多くない。許容範囲内だろう…』
『オイラの所も特には。…ん〜、でも何か変な匂いがする……かな…?』
『ゼハー……ゼハー……着、着いた……ぞ………異常……なし…………』

 無線機から聞えてくる仲間達の声に、リーブは一つ一つ地図をペン先でチェックしながら確認した。
 ナナキの言った『変な匂い』が気になったものの、ナナキ自身がまだ良く分からないようなので、引き続き異常がないか注意するよう促す。

 そんな一見、急に物々しくなってきたはずの駐屯所兼採掘者の休憩所は……。
 バレットの喘ぎ声が異様に大きく聞えるのに、マリンは真っ赤になって俯き、デンゼルはマリンの横で腹を抱えて笑っているという、子供達の存在のお陰で全く物々しくない雰囲気だった。

 リーブの指示の元、『眠りの森』の真ん中辺りまでにヴィンセント、ユフィ、ナナキを配置し、森の入口東西にそれぞれシドとバレットを配置した。
 本当なら、クラウドもヴィンセント達と共に森の真ん中辺りまで四人で監視し、シドとバレットにティファが加わって森の入り口を三人で監視する事になっていた。
 まぁ……この際仕方ない。
『今頃、あの二人はどうなってるんでしょうねぇ…』
 この場に集えなかった仲間二人を思って、リーブは口元に苦笑を浮かべ、すぐに引き締めた。
「では、今も言った様に十分後に検査を始めます。最近、『眠りの森』の向こう……つまり『忘らるる都』付近からモンスターが集まっているのではないか…との報告を受けてますので、くれぐれも用心を怠らないようお願いしますね」
『『『『『了解!』』』』』
 仲間達との通信を一旦切ると、X線写真を準備しているクレーズの傍に立つ。
「どうですか?どれが一番怪しそうです?」
「だ〜か〜ら…どれが一番怪しいか分からんと言ってるだろうに……」
 リーブの質問に、呆れ返って溜め息を吐きながら、とりあえず一番手ごろなサイズの骨の欠片らしき物を機械にセットする。
 他の採掘者である屈強の良い男達も笑いながら、それでも愛しそうに掘り出した遺物を手袋で身長に摘み上げている。
「どれもこれも…怪しいと思えば怪しくなるからなぁ…」
「全くだ。どれが宝でどれがただの石ころなんか……それは調べない事には全く分からんさ」
「まぁ、『コレじゃないか!?』って閃く事はたま〜にあるけどな」
「大概外れるよなぁ…」
「そうなんだよな〜!」
「でも、それが楽しいからこの仕事は止めらんないんだよなぁ!」

 最後の台詞に、ドッと笑い声が起こる。

 採掘者は誰もが気の良い連中だった。
 一見、強面に見える男達だが、話をしてみると過去の遺産に対して、どれ程の敬愛の念を抱いているのかが窺える。
 その話をしている時の彼らの表情は、まるで遠い未来を夢見ている少年の様だった。
 和気藹々(わきあいあい)としたその空気に……その環境のお陰で、クレーズは立ち直ったと言っても過言ではない。
 クレーズは、今では仲間と呼べる彼らの笑い声に、ニッと笑みを浮かべた。

 テントの中は、正直むさくるしい男達で息苦しいばかりだが、それでもどの顔も久しぶりに行える検査に輝いていた。
 子供達も、バレットの喘ぎ声から遺物達の検査へ興味が移り、目を輝かせ始める。

「それじゃ、時間になりましたから始めましょうか」

 リーブの穏やかな声に、野太い男達の歓声が上がった。





「うわ〜!すっごい綺麗だねぇ!」
 コスタ行きの船に漸く乗船出来たクラウドとクラウン隊員、そしてシャインは甲板で風に当たっていた。
 クラウドは重度の乗り物酔いというハンデがある為、船内に入る気はさらさらなかったのだが、もしかしたら海に落ちたばかりの少女は甲板に出るのを嫌がるかもしれない…。
 そう危惧していた英雄を少女は杞憂に終わらせた。
「そう言えば海に落ちて救助されるまでは確かに泣いてましたけど、救助船に引き上げられてからはピタリと泣き止みましたねぇ」
 クラウドが杞憂に終わった事を小声でクラウンに話すと、隊員は顎に手を当てて微笑んだ。
「元々、とっても強い子なんでしょうね。そうでなかったら、見ず知らずの他人にいきなり『お母さんは田舎に先に帰っちゃったから一緒に行こうね』なぁんて言われて、泣き叫ばないはずがないですからね」
「……最初は泣いたけどな」
「あれくらいなら全然問題ないですよ」
 クラウンの言葉に、クラウドは「確かに…」と頷くとやれやれ……と溜め息を吐いた。

 目の前では、甲板の柵にしっかりとしがみつきながらも、海の雄大な姿に目をキラキラさせている少女がいる。
 好奇心で一杯のその瞳は、遥か彼方に向けられ、時折遠くで跳ねるイルカの姿に歓声を上げた。

「うわ〜!!お兄ちゃん達、見て見て!!イルカさんだーー!!」
「うん、良く知ってるね」
「だって、お母さんとお父さんが絵本を見せてくれたんだもん。そっくりだったよ〜!!」
 嬉しそうに自分達を振り仰ぐ少女に、クラウドは家族を重ねた。

『マリンも…デンゼルも大はしゃぎするだろうな…』

 子供達の笑顔を思い浮かべると、沈みがちな気分が少し浮上する気分だ。

『何してるのかなぁ……今頃……』

 本当なら、今頃ボーンビレッジで家族と仲間達に囲まれているであろうに…。
 そう考えて再び気分が下降する。

 浮いたり沈んだり…。
 まるでこの船の様に気分が波に揺られて上に下に…時には横に揺れるクラウドを、若い隊員は知ってか知らずか…、専らシャインのお守りを引き受けていた。
 彼自身、あまり子守りの経験はないようだったが、それでも誠心誠意、接する気持ちが素直な少女には十分伝わっているようだ。
 最初見せた癇癪はすっかりなりを潜め、クラウドよりも懐いている様子である。
「ねぇねぇ、隊員のお兄ちゃん」
「ん?なにかな?」
「お兄ちゃんはお年、いくつ?」
「今年で十九歳だよ」
「ふ〜ん…」
「なに?」
「ううん。私が五歳だから……えっと……十四歳差があるんだね?」
「そう!良く出来ました!」
「エヘヘ〜」

 嬉しそうにおしゃべりをしている姿が、マリンと良く似ている。
 そして……意外におませさんなところも…。

 そんな微笑ましい会話の中で、クラウドはふとある事に気付いた。
「クラウン…キミって……十九歳だったのか?」
「え……はい。そうです」
「クラウドのお兄ちゃん、お目目まん丸〜〜!」
「……そんなに意外ですか……?」
「……ああ……」

 クラウドはてっきり自分と同い年くらいなのかと思っていた。
 それなのに、
「四つも年下だったのか……」
 落ち着いた彼がまさか四つも下だったとは……。
 非常にショックな現実である…。
「クラウドさん……そんなに俺って老けてます……?」
 こちらもまた、そんなクラウドの表情にショックを受けた…。

 青年が二人、妙な事で落ち込んでいるのを少女が不思議そうに小首を傾げて交互に見つめるのだった…。

 と…。

 ピピッピピッピピッピピ…。

 クラウンの携帯が鳴る。
 シャインを片腕で抱き上げたまま、器用に携帯をポケットから取り出すと、
「はい。あ…局長……」
「リーブ!?」
 電話に出たクラウンの一言に、クラウドは我に返った。
 そして、固唾を呑んで褐色の肌の青年を見つめる。

 本来ならば、時間的にそろそろボーンビレッジで任務が始まる頃だ。
 クラウドの視線の先では、若き隊員が困惑顔をしている。
「はい、こちらは順調なのですが……。はい……はい………」
 何やらリーブからの指示が細かいようだ。
 シャインを床にそっと下ろしてポケットからメモを取り出し、肩と耳で携帯を挟みながら器用に指示を書きとめている。
 シャインがキョトンとしてクラウンを見上げ、何か聞きたそうにクラウドを見上げてきた。
 クラウドはぎこちなく笑って見せると、話をする代わりに小さな頭をポンポンと軽く数回叩いてやった。
 そんな二人の目の前で、どんどん隊員の顔が曇っていく。
 その表情の変化に、クラウドとシャインは不吉な予感がして何となく顔を見合わせた。
 幼い少女は、うっすらと涙まで浮かべている…。
 クラウドはシャインを抱き上げると、「大丈夫、大丈夫」と小声で繰り返しながら、背中をポンポンと叩いた。

「はい、了解しました。クラウドさんに代わりますか?」
 チラリと自分を見たクラウン隊員に、クラウドは思わず身を乗り出した…。
 が……。

「え…そうですか…。はい、じゃあ、伝えます。はい、失礼します」

 ピッ。

 あっさりと目の前で電話は切られてしまった。

「おい……」
 物凄く不機嫌な顔をするクラウドに、シャインが腕の中で「ヒャッ!」と声を上げる。
 怯えきった少女をクラウドの腕から取り上げると、褐色の肌の青年は苦笑を浮かべた。
「大丈夫だからね?ちょっとお兄さん達に困った事があっただけで、シャインちゃんには全く何にも問題はないから」
 宥めるように背中をポンポン叩く青年に、
「困った事………って…………」
 クラウドが眉を顰めながら恐る恐る質問した。

 本当は聞きたくなどないのだ…。
 リーブが自分と電話を代わる事を拒否した瞬間、これ以上ない程不吉な予感がしてるのだから…。
 しかし、だからと言って聞かないではいられないじゃないか…!!

 クラウンはグズグズとすすり上げるシャインを宥めながら、非常に言いにくそうに口を開いた。

「それが……どうもボーンビレッジで大変な事が起きたらしくて……」


 クラウドは本日数え切れないほどの眩暈に再び襲われて、気が遠くなった…。





「本当に……ありがとうございました」
 深々と頭を下げるスーンに、ティファは首を振った。
「良いんですよ。それよりも早く病院へ行ってあげて下さい」
「はい…」
 ゴンガガ村に無事到着したティファとスーンは、村の入り口で別れた。
 村にただ一つあるという病院へ向かうスーンの後姿を見送っていたティファだったが、彼女のあまりにも小さくて弱々しい後姿に、何だかこのまま放っておけない気分になってきた。
 ただでさえ、彼女は身重で情緒不安定な時期になっているというのに、幼いわが子が目の前で船から落ちてしまうという事故に遭い、これから向かう病院には瀕死の状態に陥っている両親が待っている。
 そんな幾重にも重なっている不運を、身重の彼女が一人で耐えられるだろうか……?
 そう思うと…。

「スーンさん!」

 ティファの足は、自然と彼女の後を追っていた。
 振り返って驚いている彼女に、ティファは「やっぱり私も一緒に行きます…。あ、……その…ご迷惑でないなら……」とモジモジしながら付け加えた。
 スーンは大きく見開いた瞳にみるみる涙を浮かべると、
「本当に……本当にありがとうございます」
 小刻みに震えんながら、ティファに縋りつくようにその手をギュッと握り締めた。
 彼女の背をゆっくり撫でながら、ティファは自分の判断が間違えていなかった事にホッと安堵の息を吐くと、
「じゃあ……行きましょうか……」
 優しく促して病院へと向かった。

 病院は二年半前に立ち寄った時にはなかった。
 あの旅以降に出来ただけあり、非常に清潔感に溢れ、医療機器も田舎の村には驚くほど充実している様に見える。
 ティファはスーンに続いて病院へ入って行った。

 受付でスーンは両親の入院している病室を聞き、看護師の案内でその部屋へ向かった。
 途中、幾つもの病室を通り過ぎたが、チラリと見えるその病室の患者達は、高齢の人が多かった…。

「ここです…。あの……声は聞えてらっしゃいますから、話しかけてあげて下さいね…」
 看護師の気遣わしげな一言に、スーンは身体をブルリと震わせた。
 言外の言葉の意味を察したのだ…。

 返事は出来ないが、耳は聞えている状態なのだと…。
 だから……聞えないと思って滅多な事を口にするな……そう言っているのだ。

 スーンは青ざめた顔で、震える手を必死に持ち上げ、軽くノックした。
 中から返事はない。
 ソロソロと病室の引き戸を開け、中を覗き込む。

「……お父さん………お母さん………」

 病室の中は、重苦しい雰囲気が漂っていた。

 ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……。

 スーンの両親に取り付けられた心電図からの電子音が、やけに耳につく。
 スーンは、最初はドア側のベッドに横になっていた父親の顔を覗き込み、震える手でそっと痩せこけた頬を包み込んだ。
 次に、隣の窓際のベッドに横になっている母親の元へ行き、同じ様に両手でそっと母親の頬に触れ、何度も何度も小さな声で謝り続けた。
 瞳から幾筋も涙が溢れ、ポタポタと両親の頬を濡らす。
 それは、胸の締め付けられるような光景…。
 ティファは軽く息を吸い込んで、自分まで泣かないようグッとお腹に力を入れた。
 そして、跪く(ひざまずく)様にして泣き崩れるスーンを、ベッドの間に置かれていた椅子へと座らせる。
 丁度、老夫婦二人を面会に来た人が、両方を同時に見れるように置かれたその椅子は、手編みの椅子のカバーがかけられていた。

「これ…きっと…近所のおばさんの……手編みです…」

 泣きじゃくりながら、それでも嬉しそうにそう言うと、そっとその椅子のカバーを愛しそうに撫でた。
 ティファは改めて病室を見渡した。

 ベッドサイドのテーブルには、小さな草花がちょこんと飾られている。
 父親の花瓶は青、母親の花瓶は白。
 そして、病室の壁にはスーンとシャイン、そしてスーンの夫であろう男性の写真が両親二人が横になってもちゃんと見えるように掛けられていた。
 その他にも、両親が村の友人達と村祭りに撮ったであろう写真や、何気ない日常の二人の写真が綺麗に飾られている。
 千羽鶴がそれぞれのベッド柵に邪魔にならないようぶら下げられている。
 一目見ただけで、村の何人もの人達がひっきりなしに訪れていただろう事が窺える、そんな温かな病室だった。

「お父様とお母様、村の皆さんにとても好かれてるんですね…」

 ティファの一言に、スーンは「はい…ええ……そうです……」と、言葉を詰まらせながら再び涙を流した。
 そっとティファがスーンの背中に手を回して、優しく撫でた……その時。

 コン、コン、コン…。

 控えめなノックと共に、病室のドアがそっと開けられた。

 入って来たのは、初老の老夫婦と壮年の夫婦と思われる二組。
 椅子から立ち上がったスーンと、その隣にいるティファを見て、四人は最初、びっくりしてポカンと口を開けた。
 そして、次の瞬間…。

「「「「スーンちゃん!」」」」

 病室である事を忘れたかのように大きな声を上げ、緊張の為固まるスーンへ駆け寄った。
 そして、
「綺麗になったなぁ!!」
「いつ帰ってきたんだい!?」
「いやぁ…遠かっただろう?大変だっただろう?」
「おやおや、そう言えばあんた、おめでた中じゃなかったかい!?」
「そうだった!こりゃいかん。皆、静かに、興奮させたらいかん!」

 等々、口々に歓迎と労わりの言葉をかけた。
 満面の笑みと温かな言葉に包まれて、スーンはたちまち顔をクシャクシャにさせて大声で泣き始めた。

「おじさん、おばさん、本当にごめんなさい!」
「おやおや、なに言うんだか、この子は…」
「良いんだって。あんたのお父さんとお母さんもあんたの事を恨んだりなんかこれっぽっちもしてないんだから」

 しがみついて子供のように泣きじゃくるスーンを、四人は目頭を熱くしながらそれでも笑みを絶やさずに頭や背や肩を優しく撫でた。
 それは、本当にわが子にするような自然な仕草。

 その輪から一歩引いた所から見ていたティファは、堪らず目元を拭った。


 なんて温かい人達なんだろう…。
 ザックスの故郷の人達は…こんなにも温かい…。


 その輪の一人が、ふと目に涙を溜めて自分達を見守っているティファに気付いた。
「えっと……?スーンちゃんのお友達かい?」

 そこで、ようやくスーンは慌ててティファを紹介し、これまでの経緯を話して聞かせた。
 話を聞き終えた村人達が、ティファに対して言葉に出来ないほど感謝したのは言うまでもない。

 ティファは、「すいません、ちょっと家族に電話をしてきます」と、感謝の言葉の嵐を掻い潜ると、そっと病室を後にした。
 電話を口実に病室を出たが、実際病院に到着してから三十分以上経っている。
 そろそろリーブかヴィンセント達辺りに電話をしないとまずいだろう。
 実は、ゴンガガ村にスーンと共に行く事を決めた時点で携帯の電源を切っていた。
 精神的に不安定な彼女に、少しでも気を使わせてはいけないと思い、セスナの中にいる間に電話がかかってこないように……とのティファの配慮だった。

『あ〜、でも携帯の電源落とすね…って一言伝えておけば良かったかな……?』
 軽い後悔と共に足早に病院から出ると、携帯を取り出して電源を入れ、リダイヤルボタンを押す。
 何度目かの呼び出し音の後、リーブが出た。
 しかし、その声が何となく緊張している様に聞えたティファは、たちまち胸の中に残っていた穏やかで温かい気分から現実へ切り替えた。
「どうしたの?何かあった?」
『丁度…かった、連絡…ようと思っ…たんです』

 リーブの声が何故か途切れがちに聞える。
 電波状況が良くないらしい。

「なに?電波が悪いみたいだけど…」
 思わず自分の携帯を見るが、アンテナはきちんと三本立っている。
『あ…、やっぱり……すか…。聞えま…か?』
「うん、何とかね」
『ヴィンセ…ト…達が無事……たので、検査を……たんですが……どうも……いか……』
「リーブ…?ごめん、なに言ったのか良く聞こえない」
『あ…っと待って……さい……』

 ザザ……というノイズ音が一際強くなったかと思うと、すぐにそれは消えた。
『すいません、どうですか?聞えますか?』
「あ、聞えるよ。どうしたの、大丈夫?」
『ええ、すいません。ヴィンセントさん達が無事に到着してくれたので、滞っていた検査を早速始めたんですが、その検査中ちょっとアクシデントがありまして。それがきっかけで少々マズイ状態なんです。今、全員シエラ号とWROの輸送ヘリでボーンビレッジから退却中なんですよ』
「えーーー!?」





 時間は少し遡る…。

「どう?何か分かった?」
「ん〜……特にこの壺には中身がないな」
「空っぽなの?」
「うん…そうみたいなんだよなぁ」
 興味津々で見学していたデンゼルとマリンに、クレーズが首を捻りながら答えた。
「クレーズさん、でも何だか納得してないみたいだね?」
「ん?……ん〜そうなんだよな…。X線で何も写らなかったけど……何か…こう……空っぽ…にしては重い気がするんだよなぁ…」
「まぁ、その壺は『骨壷』じゃないってだけの事じゃないか?」
「「『こつつぼ』?」」
 首を傾げる子供達に、日に焼けた中年の男がニッと笑った。
「おうともさ。『こつつぼ』。埋葬した人間の『骨』を入れる壺の事だ」
「「ゲッ!!」」
 ギョッとして机から遠ざかった二人を、その場にいた大人達が楽しそうに笑った。
 クレーズ一人は、しきりに首を捻ったままだ。
「おっかしいなぁ…。これまでの発掘したこの手の壺は、大概『骨壷』だったのになぁ…」
「X線で写らないだけで、赤外線だと何か写るんじゃないか?」
 作業をしている一人がそう言うと、
「そうかもしれないが……」
 何とも言い様のない表情を浮かべたまま何気なくその壺を振ってみた。

 ゴトン…ゴトン…。

「………中に何か入ってるのだけは確実だな…」
 重い音が鈍く響く。
「……何でX線で何も写らなかったんだろう……」
 他の作業員も首を捻った。

 どうも…なにか……嫌な予感が……する……。

 先程までの陽気な表情とは打って変わって、『壺』の音を聞いた作業員全員が神妙な顔つきになった。
 子供達は、その場の空気の変化にただ黙って顔を見合わせている。

 そこへ。
「どうですか?なにか分かりましたか?」
 WRO隊員達と外を見に行っていたリーブが帰ってきた。
 テントの中の異様な雰囲気に一瞬入口で固まり、眉を顰める。
「なにかあったんですね?」
「ん〜…なにかっていうか……ちょっとおかしい物を一つ発見した所だなぁ…」
「それですか?」
 クレーズの手元を覗き込んで「なんですか…?壺…に見えますけど……」と呟く。
「X線に中身が写らなかったんだ。中に何か入ってるのだけは確実なんだけどなぁ…」
 ガシガシと頭を掻きながらリーブを振り返った。
 その時…。


 バコッ!!


「「「「「「「ああああーーーーーー」」」」」」」


 何という事か!
 頭を掻く為に片手に持ち変えた壺が、リーブを振り返った為にバランスを崩して床に真っ逆さま。
 重い音を立てて真っ二つに割れてしまった。

 クレーズは勿論、テーブルを挟んで壺の落ちた床が見えない作業員達は全員蒼白になって駆け寄った。
 子供達はクレーズの傍らにいた為、割れた壺をしっかり・バッチリ見る事が出来たが、そうでなかったらきっと見せてはもらえなかっただろう。

 割れた壺の中からは…。

「「「「「「「????」」」」」」」

 何とも奇妙な形の………角………らしき物……。
 古くて所々汚れてはいるが、螺旋状に捻れたその『角』らしき物は、恐らく磨けば純白になるだろう…。

「……『角』かな…?」
「……『角』だろうな…?」
「……なんでX線で写らなかったんだ……?」
「「「「さぁ…」」」」


 その怪しげな『角』を、その場にいる全員が訝しげに見つめるのだった。
 丁度その頃…。
 ティファがスーンと共にゴンガガに到着した。



 あとがき

 本来の目的、『ボーンビレッジでモンスターからの護衛』がようやく登場です(遅!!)
 はい、これからどうなるのか……課題は盛り沢山……(おおう…滝汗)
 次回をお待ち下さいませm(__)m

*すいません、ホンの微妙に3/24加筆修正してます。