幸せのかたち 12「それにしてもお前らもう少し早く言えよな!こちとら暇人じゃねえんだぞ!」 「本当にごめんなさいね、シド」 「ああ…悪かった…」 高く昇った太陽の下、晴天の空を行くシエラ号の船室でシドの呆れ返った声が響く。 それを宥めるように謝るティファと、頭を掻きながらもどこか嬉しそうなクラウドに向かって、シドはタバコの煙を吹きかけた。 今、クラウド達はシエラ号でエッジへの帰路に着いていた。 約束通り昼前に到着したシドは、不機嫌そのものの顔をしていたが、乗船者が二人増えているのに目を丸くした。 『すみません、初めまして』 やや緊張した面持ちで頭を下げた紫紺の瞳の青年と、彼と手を繋いでいる紺碧の瞳の若い女性。 青年と若い女性の瞳の色が滅多にお目にかかれる色でなかった事と、女性の虚ろな表情にシドは一瞬不機嫌を放り出した。 女性の表情と瞳の色を見た瞬間、二年前のクラウドの姿がフラッシュバックする。 思わずクラウドとティファを見ると、二人は黙って頷きシドの声にならない言葉を肯定して見せた。 『魔晄中毒』 しかし、この二人には二年前にクラウドとティファにあった『暗さ』がなかった。 その事を気にしながらも、口にしたのは、 『おう!えらくベッピンな姉ちゃんだな!』 という何ともオヤジ臭い台詞だった。 「それで、あの姉ちゃんは何で魔晄中毒に?」 シドの言葉から、神羅の魔手を警戒する響きを聞き取ったティファは、すぐにそれを否定した。 そして、ミディールでの出来事を説明する。 ティファにそれを託す形になったクラウドは、ふと窓の外を眺めた。 相変わらずの晴天で、陽の光に目が痛いくらいだ。 子供達とプライアデス、そしてアイリは甲板に出て風に当たっている。 子供達のはしゃぐ声がドア越しに聞こえてきた。 成り行き上、予定よりも一日早く帰ることになってしまったが、それでも子供達はそのことに対して全く不満を感じていないようだった。 それよりも、プライアデス、アイリと共に帰路につけるのが嬉しいらしい。 乗船する前から、そして乗船した今でも二人から離れようとしない。 しきりにアイリに話しかけたり、プライアデスからこれまでの任務についての話をせがんだりしている。 生真面目な青年は、 『任務の話は秘密なんだよ…。あ〜、でもこの前任務に行った時の面白い話だけなら……』 と、一生懸命にトップシークレットに引っかからない話をしてやっていた。 本当に良かったな… しみじみとそう思う。 昨夜の酔いつぶれた姿、そして彼女に手を差し伸べる直前に見せていたギリギリの表情、それらを目にしたクラウドは、乗船前に彼が見せた笑みと真っ直ぐ立つ姿に密かに感動していたりする。 『お前、絶対にアイリを傷つけるなよ!』 若者の言葉に、どこまでも真っ直ぐな眼差しを向けつつ、 『はい。また彼女と遊びに来ます』 と、頷いていた。 それにしても…。 あんなにあっさりと『退院許可』が出るとは思っていなかったな…。 シドに説明しているティファの声をBGMに、クラウドはつい二時間ほど前のドタバタを思い出してフッと笑みを浮かべた。 若者達にアイリを連れて行くよう要求された後…。 とりあえず一行は診療所へ戻った。 医師に退院許可を貰わなければならないし、それに伴い看護記録を持って帰らなければならないだろう。 色々と退院にまつわるエトセトラを想像していた皆に、医師と看護師は揃って、 『じゃあ、一緒に今日帰りなさい!』 と、嬉々とした表情でそう告げた。 『えっと…、でも色々あるんじゃないですか?退院出来るかの検査とか…』 目を丸くするプライアデスに、医師は 『必要ないんだよ。昨日の発作も原因はストレスだろうしね。それに、この二年間、検査を定期的にしているけど、もういつ退院しても十分な体力はあると結果に出てたし…』 そう言って少し言葉を切り、次の言葉をゆっくりと頭の中で考えてから声に出した。 『本当は、彼女をいつでも帰せるように…そう心積もりをしていたんだ…』 『え?』 医師の言葉が飲み込めず、戸惑う紫紺の瞳の青年に、看護師が優しく微笑みながら書類をまとめつつ話を継いだ。 『あのね。本当はあなたには言ってなかったんだけど、彼女は二年前に入院してからずっと、船着場に一人で行こうとしてたの。きっと、帰りたかったのよ…』 『……僕にはって言う事は、両親には…?』 『ご両親にも話してないさ。話したのはそちらの方々』 どことなく窺うようなプライアデスに、医師が苦笑してクラウド達を指す。 それに対して、何となくばつの悪そうな顔をする彼に、看護師がテキパキと荷物を詰めた鞄を差し出した。 『だって、こんな表現は物凄く失礼だけど、ライ君とライ君のご家族は彼女の家族じゃないでしょう?確かに診療費とかアイリの生活に関わる全ての諸費用はあなた達一家から頂いてるけど、それだけでも世間一般から見たら大層なことだもの…。それなのに、アイリが帰りたがってます…だなんて言えるはずじゃない』 そう言う看護師の言葉からは、どれだけ彼女が帰りたがっている事を話したかったか…という気持ちが伝わってきた。 医師と看護師が一も二もなく、退院許可を出したその背景に、一行は言葉を詰まらせたのだった。 「おい、クラウド!なにボーっとしてやがる!」 「あ……ああ、悪い。ちょっと考え事だ」 「ったくよ〜。それにしても、お前、なんだって今日はそんなに機嫌が良いんだ?」 ったく、気味がわりぃ〜! 悪態を吐くシドに、クラウドはそれでも腹を立てる事なく肩を竦めるだけだった。 「フフ、クラウドは安心したのよね?」 悪戯っぽく笑みを浮かべて顔を覗き込むティファに、クラウドはどういった表情をして良いのかわからず、そっぽを向く。 「あ?何だ、安心って?」 「フフ、あのね…」 「おい…、変な事言うなよ…」 首を傾げるシドに、ティファが嬉しそうに口を開くのを見て、ついつい待ったをかける。 当然、そんな事をされて「はい、そうですか」と聞く彼女でもないし、聞かなかった事に出来るシドでもない。 結局、プライアデスを励まし、見守った『良いお兄ちゃん振り』のクラウドを面白おかしく話されてしまったのは言うまでも無い。 「へぇ〜!クラウド、お前も大人になったな〜!!」 「何だよ、大人になったって…」 「かっかっか!照れるな、照れるな!」 「照れてない!!」 ティファから一部始終話を聞いたシドは、照れて顔を赤くするクラウドにすっかり機嫌を直し、バシバシと背中を叩いた。 そんな二人に、ティファも嬉しそうに笑みを浮かべる。 「それにしてもよ〜、今日いきなり連れ帰るって…あの坊やの実家はOKしたのか?」 ひとしきり笑った後、シドが少々心配そうな顔をした。 それに対し、クラウドとティファは顔を見合わせると揃って眉を寄せる。 「ん〜、それがね…」 「大丈夫みたいんなんだが…」 「あん?なんだよ、歯切れが悪いじゃねえか」 クラウドとティファは、再び顔を見合わせるとポツポツとその時の事を話しだした。 「あ、僕です。父上はおられますか?あ、会議中ですか。いえ、別に急ぎ…と言うほどでも…。あ、大丈夫ですか?では、繋いで下さい」 実家に事情を話すべく電話をかけ始めたと思われるプライアデスを、皆が目を丸くして見つめる。 「『父上』って、流石お坊ちゃま…」 ピアス男が呆然としながらポツリと零す。 「あ、父上。ご無沙汰しております」 父親に対し、どこまでも丁寧な口調に皆はますます目を丸くした。 『なぁなぁ、もしかしてライ兄ちゃんって家族と仲悪いのかな…』 『そんな、でもライお兄ちゃんって家族の事、大好きみたいな事、前言ってなかった?』 心配した子供達がひそひそと囁き合っている。 「ええ、すみません。なるべく今度から顔を出すようにします。実は今日はご報告がありまして…」 一つ息を整えて背筋を伸ばしたプライアデスに、皆が緊張の眼差しを送る。 「アイリを連れて帰ります。ですから、彼女の部屋を………!?」 突然、プライアデスは携帯電話を耳から思い切り遠ざけた。 何やら携帯からは、男性の叫び声のようなものが響いている。 「も、もしかして駄目って言ってるのかしら…」 不安気にティファがクラウドを見る。 クラウドも、不安そうな顔をするとプライアデスを見た。 若者達は、アイリの幸せの為…、彼女がプライアデスの傍にいる事を望んでいるのを知った今、何が何でも彼女を彼の家に連れ帰ってもらいたいと思っている。 その気持ちのこもった眼差しは、肌で感じるほど殺気立っていた。 そんな皆の視線の嵐の中、プライアデスは携帯を恐る恐る耳にあて直す。 「もしもし、父上?聞こえていますか?あ、あの……、父上!!………『ああ何?』じゃ、ありません。というわけですので、今から飛空挺に乗ってエッジに帰りますから明日の早朝には戻れます。ですから………ええ、施設ではなく我が家の方でと思ってます…。施設も今は満床だったはずですし…。駄目ですか?ああ、そうですか、それは良かった……はい!?今なんて…?………無理です!!僕は明日から任務に……え!?何言ってるんですか!そんな非常識な事……、……え!?いえ、本当にやめて下さい、そんな事されたら恥ずかしくて辞めなくちゃならなくなります!!…………え……いや、それは………え!?いえ、本当に駄目です!!それじゃ、もうとにかく連れて帰るので、彼女の部屋と医師の手配、よろしくお願いします!切りますよ!!………………え!!まだ何か……ああ、そうなんです。ええ、本当に素敵な人達で、この方々がおられなかったらきっと、これからもこういう日は来なかったと思います。ええ、……勿論感謝して………ええー!?」 プライアデスが素っ頓狂な声で目を剥いた。 その彼に、その場の全員がビクッと身体を引き、嫌な汗を噴き出させた。 「なぁなぁ、何だか兄ちゃん、怒ってた?」とデンゼル。 「……怒ってるっていうか、戸惑ってる…?」とクラウド。 「何でかしらね…」とティファ。 「う〜ん、気になるね…」とマリンが、ひそひそと声を落として囁く。 「それに、非常識って言ってなかったか…?」とピアス男。 「恥ずかしくて辞めなくちゃ…とも言ってなかったか…?」と赤髪の男。 「何だか不穏な気配だな…」とリーダー格の男。 「「本当に…」」と女性達がこれまた仲間同士でひそひそと囁いている。 そんな皆の目の前では、額に汗まで浮かべて生真面目な青年が必死に何やら訴えている。 「ですから、そんな急に話を持ちかけてもご迷惑に…。え……いえ、そりゃ勿論そうですが、この場合は『急いては事を仕損じる』という諺の方が合ってると思います。……え!?ですから僕は明日任務………駄目です!!本当にやめて下さい、お願いですから!!!」 「あ〜、またお父上が無理な事言ってるみたいだなぁ」と医師。 「そうみたいですね〜」と看護師がそれぞれ苦笑する。 「ライ兄ちゃんの父さんって変わってるの?」 デンゼルの質問に、医師と看護師は同時にためらいなくコックリと頷いた。 「ふ〜ん。あんなに真面目なお兄ちゃんのお父さんが変わってるって…。ちょっと見てみたいなぁ!」 「こ、こら、マリン!」 面白そうに言うマリンに、慌ててティファが口を塞ぐ。 しかし、プライアデスには全く聞えていない。 皆がオロオロする前で、必死な面持ちで何やら論争を繰り広げている。 「とにかく、明日の早朝にはエッジに着きます。到着する三十分前に一度連絡しますので、迎えに来て下さい。……ですから、明日の任務は外せません!責任があるんですから………、え!?そりゃ、そうですよ………。……父上!!あ……!!!」 そうして一際大きな声を上げた青年は、肩で息をしながら携帯を掴んでいる腕をだらりと垂らすと、 「はぁ〜〜〜…」 と、深い深い溜め息を吐いてガックリと頭を垂れた。 「ど、どうしたの…?」 恐る恐る訊ねるティファに、力なく振り向いた青年は苦笑する事すら出来ずにポツリと一言。 「切れました…」 「なんだそりゃ……」 ポカンと口を開けるシドに、クラウドとティファも苦笑するしかない。 「さぁ。分からないんだけど、とりあえずライ君のご実家の方はアイリさんを受入れるのに反対じゃないみたい」 「多分な…」 「…でも、携帯が途中で切れたっていうのがちょっとねぇ…」 「「………」」 何となく重い空気が漂うが、それもシドの吐き出した煙と共に余計に重苦しく感じるのは、クラウドとティファの気のせいだろうか…? 「ま、何とかなるだろ?あの坊やの眼、ありゃ大したもんだ!そこいらの馬鹿なガキどもとは光が違う」 シドの言葉に、二人はホッと肩の力を抜くと、微笑み合った。 「ああ、そうだな。きっと、これからライはもっと頼り甲斐のある人間になるだろう」 「ええ、そうね。だって、これ以上は良くならないって言われてたのに、アイリさんに笑顔を与えたんだもの事」 ティファはその時の感動を思い出して目にうっすらと涙を浮かべた。 「おお、聞いただけでも俺様も感動したぜ!くぅ〜、見たかった!!」 悔しがるシドに、クラウドはフッと笑って見せると、 「ああ、本当にあれは一種の奇跡の瞬間だったからな。見られなかったのは不運だったと思う」 などと珍しく嫌味を言って、シドに睨まれた。 しかし、睨んだシドはすぐにニヤ〜ッと笑うと、 「それにしても、お前、本当にその坊ちゃんの事を気に入ったんだなぁ。本当に珍しいじゃねえか。ティファとお前んとこの子供以外でそこまで気に入るなんてよ!」 と、肩を組んでニヤニヤ笑いをますます濃くする。 はい、形勢逆転…。 「ほっとけよ…」 うっすらと顔を赤らめてフイッとそっぽを向くクラウドに、シドとティファはお腹を抱えて笑い転げた。 そこへ、笑いながら子供達と話題の中心だった二人が入ってきた。 散々風になぶられて四人とも髪が好き放題乱れている。 その中でもマリンは結っていた為被害が一番少なく、大被害は残り三人。 デンゼルのフワフワの髪はグシャグシャ、プライアデスの漆黒でサラサラした髪はボサボサ、アイリの茶色のショートカットのへアスタイルはバサバサになっている。 「あ〜、面白かった!」 「うん!!足元に綿飴みたいな雲が沢山あったし、遠くには海がキラキラ光ってるし!!」 「おう!どうだったよ、飛空挺からの眺めはよ!」 キラキラと目を輝かせる子供達に、ニッと笑いかけたシドは、陽気に声をかけた。 「「もう、サイコー!!」」 声を揃えるデンゼルとマリンに、ティファが笑みを浮かべながら近づいた。 「フフ、面白いでしょ!?」 「うん!もう風が強くて飛ばされそうになるんだけどさ、それがまた面白いんだ〜!」 「何だか自分で空飛んでるみたいなんだもん!!」 興奮する子供達の後ろでは、アイリの乱れた髪を手櫛で梳くプライアデスが笑みを浮かべながらやり取りを聞いていた。 「おう!お前はどうだったよ?」 「あ、はい。楽しいですよね、飛空挺での旅は。天気も良くて景色が最高でした。本当に有難うございます、すみません、突然乗船させて頂く事になって…」 恐縮する青年に、シドは手を振って見せると満足そうに何度も頷いた。 「いいって事よ!それにしても、坊ちゃんのクセに腰が低い野郎だな。気にせず堂々としまくってるいけ好かない連中なら掃いて捨てるほどいるって言うのによ〜!!」 感心、感心!と、すっかりプライアデスが気に入ったようだった。 「そこがライ兄ちゃんの良い所だよな〜!」 「そうそう!ライ君の従兄妹もとっても素敵な人達だし!」 「……若干一名、嫌な人がいるけど…」 「……マリン、それは言うな」 マリンの一言に、ボソリとクラウドが呟き、プライアデスは苦笑した。 アイリは相変わらずフラフラと頼りなげだが、彼女の手はしっかりとプライアデスの腕を握り締めている。 視線が合わなくても手で己の意思を示す彼女の想いがそこにはしっかりとあった。 「まぁ、よく分かんねえが、とりあえず飲むか!」 シドの言葉に、子供達が歓声を上げる。 「俺達もジュースとかある?」 「おうよ!まかせとけ!!」 「やった〜!」 「じゃ、厨房貸してね!今日はもう、お祝いしなくちゃ!!」 踊るような足取りでシエラ号の厨房に向かうティファを、子供達が我先にと追いかけて行った。 手伝いを買って出た子供達に、クラウド達は目を細めて見送った。 「それにしてもよ、お前明日の任務何とか出来ないのか?」 シドがタバコをくわえたままプライアデスに声をかける。 「前から決まってた事なので…」 「そんなもん、明後日にまわしゃ良いのによ」 「ライは真面目だからな」 困ったように笑う青年を、さりげなくフォローしたクラウドを、シドは「お!?」と目を軽く瞠った。 「何だよ?」 「いんや、別に〜」 不機嫌そうに軽く睨んでくるクラウドを、シドはニヤニヤと笑みを浮かべて見やる。 へへ、こいつも本当に良い顔になったもんだな! 言葉に出さずにそう胸の中でこぼし、シドは景気良くタバコの煙を吐き出した。 その日の夕食は、ティファと子供達の力作が食卓に並び、全員が満足の溜め息を吐いた事は言うまでもない。 沢山の笑い声と沢山の笑顔の夕食を終え、子供達が名残惜しそうにしながらも部屋に引き上げた後…。 「それにしても、本当に皆さんにはお世話になりっぱなしで…」 改めてプライアデスはクラウドとティファ、そしてシエラ号の艦長に頭を下げた。 「良いのよ、そんな事!ね、クラウド?」 「ああ、気にするな。それに、俺達もライとアイリさんに会えたから分かった事もあるし…」 笑みを浮かべて静かに答えたクラウドに、プライアデスは尚も申し訳なさそうな顔をしていた。 その青年の背中を、いささか酔っ払った艦長が「良いって言ってんだから気にすんな!!」とバシバシ遠慮なく叩く。 「おう、それにしても、お前、電話途中で切れたそうじゃねえか」 「え?」 肩に肘を置き、急に質問口調になったシドに、プライアデスはキョトンと首を傾げる。 「ほら、俺様が迎えに行く前に家に電話したんだろ?あれ、何て言ってたんだ、お前の親父さん」 酔いに任せて聞きづらかった質問を口にしたシドに、クラウドとティファは内心ギクッとした。 しかし、そこでいつもなら止める二人だったが今回はそっと様子を窺うことにした。 気になっていたのは事実なのだから…。 すると、紫紺の瞳を軽く見開き、ばつの悪そうな顔をして苦笑すると、隣に座ってウトウトしているアイリをそっと見やった。 「ああ、実は…」 そして、何も知らないシドに自分の生い立ち、彼女の生い立ちについて話して聞かせ、それをシドは途中で「何!?」「そんな奴らは無視に限るってもんだ!!」「ケッ!一昨日きやがれって言ってやれ!!」などなど、口を挟みながら聞き入るのだった。 「ま、お前の気持ちも分かるけどよ。でもその気持ちから一歩踏み出した門出だったってわけだな、今日は」 「ええ、まあ…」 「ほー!こりゃ目出てえじゃねえか!おい、もっと飲め!」 ほんのりと顔を赤くして照れる青年に、ガハハと笑いながら酒を差し出すシド、そんな光景に胸を温かくしたクラウドとティファは肩を震わせて笑い、アイリは相変わらず何を見ているのか分からない顔をしていたが、その紺碧の瞳は優しい色を浮かべていた。 「本当に良い旅行だったね」 「ああ」 散々飲まされ、絡まれた末、漸く部屋へ引き上げたクラウドとティファは、眠る子供達の顔を眺めながら、静かな時を過ごしている。 ティファの意味深な言葉に、首を傾げたクラウドは、やんわりと微笑んでいる茶色の瞳にうっすらと銀色の雫が浮かんでいるのを見て戸惑った。 「えへへ、ライ君とアイリさんの一件で、沢山発見しちゃったから胸が一杯」 照れたように笑い、そっと目じりを拭うティファに、目を細めてそっと抱き寄せる。 「私達が知らないところで、沢山の人達が過去を背負いながら一生懸命今を生きてるんだなって改めて分かったし、子供達が本当に素敵な子達だって実感したし…」 「ああ、そうだな」 「それに、ライ君とアイリさんが見せてくれた奇跡、本当に感動しちゃった」 「ああ」 「私達も…」 「ん?」 「私達も、沢山の奇跡があって、今、こうしていられるんだよね…。なんか、そう思ったら涙が止まんない」 腕の中で困ったように微笑むティファを、クラウドはほんの少し力を込めて抱きしめた。 「これからもさ」 「うん?」 「きっと、これからも沢山の奇跡があって、沢山幸せになれるさ。それこそ、色々な幸せを手に出来る…。ティファと、デンゼルと、マリンと四人一緒ならな」 「うん、そうだね」 シエラ号は行く。 真夜中の銀の海原を、沢山の幸せを乗せて…。 あとがき はい。ダラダラと続いていましたがどうにか完結しました。 本当に長い間かかってしまい、すみませんでした。ここまでお付き合い下さり、本当に有難うございます!! 今回の『幸せのかたち』ですが、色々な幸せがあるんだよね〜、という事を書きたかったのですが、イマイチまとまりが悪くなってしまった感がありまして、本当に申し訳ないです。 そもそも、この話を考えたきっかけって言うのが、FF7をプレイしていた時に『魔晄中毒にかかった人達って他にもいるんだろうな〜』とふと考えただけだったりします(汗)。 ブーゲンハーゲンのおじいちゃんから、ライフストリームが噴き出す地域をティファ達が聞いて、そこに向かう場面がありましたよね? その時に、『もしかしたら、魔晄中毒患者がワンサカ出てきたりして!』とか思ったのですよ。 でも、実際には出なかったので、『あ〜、他の患者さんって、いた場合はどうなっちゃうわけなのかな〜??」と思ったのです。(ああ、くだらないきっかけで御免なさい 汗)。 それから色々と妄想が膨らんで、今日に至るわけです(笑)。 細かな設定とかは覚えてないので軽く流して頂きたいと思います(苦笑)。 プライアデスとアイリは、パッと見たら苦しい関係にあると思いますが、二人にしてみたら一緒にいられるだけで幸せなんだ〜…、という関係です。 『五体不満足』の著者様を本当に尊敬していて、ちょこっと参考にさせて頂いてたりします(真っ直ぐ生きておられる姿とか、著者様と生涯を共にされる決心をされた伴侶の方の絆とかです)。 周りから見たら不幸にしか見えないことでも、当人にしたら実はそうではないって話が割りとありますよね?それを書きたかったのですが……ああ、文才の無い自分が悲しい…。 あと、クラティファミリーの絆の深さというか、小さな事でも幸せを感じられるようになったクラティを書きたかった…んですが…(滝汗)。 きっと、これからも沢山の小さな奇跡がクラティファミリーにあるでしょう! ここまで読んでくださって、本当に感謝です! *ちょこっとだけ『おまけ』を書きましたので、宜しければどうぞ♪ |