幸せのかたち2



「そうだったんですか…ご旅行でこちらにいらしてたんですか…」
「うん、そうなんだ!」
「それにしてもびっくりしちゃった!まさか、ライお兄ちゃんがアイリさんの知り合いだったなんて!」
「本当、世の中って広い様で狭いのね…」
「全くだ…」

 思わぬ人との再会を、思わぬところで果たした五人は笑顔で腰掛けている。
 当然、彼とクラウド達が知り合いである事に、医師と看護師はびっくりした。
「何だか君達は不思議な縁があるようだねぇ…」
 医師がしみじみと言った。
「フフ、本当に。それにしても、まさかアイリにデンゼル君がぶつかるとはね…」
 笑いを堪えるプライアデスに、デンゼルは赤くなりながら落ち着きなく足をブラブラさせる。
 話題の渦中の女性、アイリは今、ベッドに横になってぐっすり眠っている。
 そしてその右の手は、プライアデスが握っていた。
 その光景は、まるで…。

「なぁ、ライ兄ちゃん?」
「ん?何だい?」
「ライ兄ちゃんとアイリ姉ちゃんって、どうやって知り合ったの?」
 不思議そうな顔をするデンゼルの隣では、マリンも興味津々な面持ちでじっと見つめている。
 プライアデスは、アメジストの瞳を僅かに揺らせ、躊躇うような顔をしたが、それも一瞬だった。
 穏やかな眼差しを眠る彼女の顔に移し、頬を緩める。
「彼女は僕の恩人なんだよ」
「「恩人?」」
「うん、恩人」
 そう言って、少々物思いに耽る。
 そんなプライアデスに、クラウドとティファは聞いてはいけない質問を子供達がしてしまった事に気がついた。
 そして咄嗟に口を挟もうとするが、それを感じ取ったプライアデスはやんわりと微笑んで見せた。
「かまいませんよ。本当はクラウドさんとティファさんには、一度お話を聞いて頂いて、ご意見を聞かせて頂きたいと思ってましたから…」
「え?」
「意見?」
 クラウドとティファは、プライアデスが言いたい事を瞬時に察し、顔を曇らせた。
 恐らく、彼女と同じくライフストリームに落ちた経験を持つ自分達に、彼女を救う方法を訊ねたいのだろう。
 しかし…。

 プライアデスは、表情を曇らせた二人を見てそこにある意味を正確に読み取った。
 そして、「やっぱり…」と言うように、二人と同じく顔を曇らせる。
「ライ兄ちゃん?」
 心配そうに顔を覗き込むデンゼルとマリンに、プライアデスはハッと顔を上げ、苦笑して見せた。
「ああ、ごめんごめん。ちょっとボーっとしちゃったよ。うん。アイリとの出会いはねぇ…」
 そうして、プライアデスは語りだした。


 僕の家が結構有名だって言うのはもう話したでしょ?
 有名な家柄って言うのは、それに伴う人材を求めるものなんだよ。まぁ、人材って言っても、五体満足かどうか…みたいなものかな。性格とか頭が悪くても、そこは『家柄』でフォローされてしまうところがあるからね。だから、イザベラみたいに勘違いした人間もいるわけなんだけどさ。
 そこはまぁ、置いといて…。
 僕のこの瞳の色で、僕の両親は本当に肩身の狭い思いをしなくてはいけなくてね。
 やっぱり、紫色の目をした人間なんて、僕以外にはいないだろう?
 うん。それで、かなり僕は偏見の眼差しを受けて育ったんだよ。
 勿論、両親はこんな僕でも本当に愛して育ててくれて…。今思えば、あの頃両親の想いをもっと素直に受け止めれたら良かったのにね。
 僕は弱い人間だから、両親の愛情を『周りの人間に非情な親だと思われない為の仮面でしかない』って思っちゃったんだ…。本当、バカだよね。
 でもさ。本当に辛かったんだ。
 何かしらのパーティーに参列するたびに、好奇の視線を浴びせかけられるのが。
 全部が全部、珍生物を見るような目つきでね。
 本当、あれには参ったなぁ…。
 それでさ。僕は弱いから、どんどん内に引き篭っちゃってね。
 周りの人達は勿論、両親や兄さんにまで壁を作っちゃって…。
 そんな時、このミディール地帯にやって来たんだ。

 僕の家は、代々星の流れと言うものに大変興味を持っていてね。
 よくコスモキャニオンのブーゲンハーゲンさんの話を聞きに行ったもんだよ。
 そのおじいさんの話で、ミディールに時々ライフストリームが噴出すって聞いて、家族揃ってこの地にやって来たんだ。
 そして……。
 彼女に出会ったんだよ…。

 彼女に出会ったのは、ミディール地帯にある孤島の一つで、森の中だったんだ。
 実は、僕、迷子になってさ。
 それも、周りにいる沢山の大人や、グリート(従兄弟)やラナ(従姉妹)まで撒いて、わざと皆からはぐれたんだ…。
 このまま消えてしまいたい…そう思ってさ…。
 こんなに鬱蒼と茂る森の中なら、こんな子供を見つけるのは無理だろう…そう思ったんだ。
 もう、皆に奇妙な生き物として見られるのはうんざりだったんだよ、本当に…。
 その時の心って本当に荒んでたんだなぁって今では何だか自分なのに呆れちゃうんだけどね。
 そうして、行き先もなく森の中に入り込んで歩いていると、やっぱり段々怖くなっちゃって。
 周りを見たら気味悪いくらい木々が生い茂ってるでしょ。それにさ、日の光が高い木の枝に遮られて暗いんだよねぇ周りが。
 それで、もう、心細いし、帰りたいし、でも帰りたくなくて、頭がパンパンになっちゃってね。泣きそうになったよ。

 そんな時に
 歌が聞えたんだ

 綺麗な歌だったよ。
 本当に…、
 悩みも
 苦しみも
 悲しみも
 全てを洗い流してくれるような…
 そんな澄んだ歌声だった。

 怖いことも忘れて、その歌声のする方へ行ったら…。

 彼女が歌ってたんだ…。

 びっくりしたよ。
 だってあんな森の奥に一人で歌ってるんだもん。
 普通なら、気味悪くて仕方ないと思うんだけど…。
 その時の僕は、全然気味悪くなんか感じなかったんだ。
 楽しそうに一人で森の中で歌ってるなんて、今考えたら絶対に変人だよね。
 あはは、そう思うでしょ?
 でもね。
 ちっともそんな事思わなかったな…。
 楽しそうに歌うアイリはさ…。
 とっても可愛かったよ。

 しばらく黙って彼女を見てたんだけど、そのうち彼女は僕に気付いてね。
 目が合ったんだ。
 その時に、彼女、物凄くびっくりしてね。
 まぁ、そりゃそうだよねぇ。
 一人で歌ってたのに、気がついたら知らない男の子がジーッと見てたんだから。

 でもね。その時僕が思ったのは、『ああ、この子も僕の事を変な目で見るんだろうな…』っていう不快感だったんだ。
 本当、あの頃の僕って捻くれ者もいいところだったと思うよ。
 でも…。
 彼女はね。

「綺麗な目の色!私、こんなに綺麗な目の人に会ったの初めて!!」

 そう言って、笑ってくれたんだ。

 初めてだったよ。
 目の事を気味悪がられたり、軽蔑したような目で見られたりせずに初対面で普通の人みたいに言われたのはさ。ましてや褒めてくれたなんて。
 今はリトやラナとは仲が良いけど、それも彼女に…、アイリに会った後、僕が周りに作った壁を取り払った後に仲が良くなったんだ。
 だからね。
 彼女は僕の初めての友達なんだよ。

 それから彼女の話を夢中で聞いたよ。
 彼女はお母さんと二人で暮らしてたんだけど、もう亡くなってしまっててね。
 それで、彼女一人で親戚の人のところに行く途中、強盗にあったらしくてさ。
 人買いって知ってる?
 その強盗に売られそうになったんだって。
 そこを、ミディールの定期船に紛れ込んで島に逃げ出して…。
 その森の近くでストリートチルドレンの集落があって、そこで彼女は何人かの子供達と暮らしてたんだ。
 でも、その集落も最近では孤児院から職員が来て、子供達を施設に連れて行こうとする動きが活発になってるとかで、昼間は子供達は皆、森の中に逃げてるか、街に行って簡単な仕事を探したりしてたんだって。
 アイリは森の中で木の実やきのこを探す担当だったらしくてね。
 それで森の中にいて、歌を歌ってたら僕が寄って来たんだってさ。
『寄って来た』って言われた時は、『僕は虫?』って思ったけど、とっても新鮮だったな。


 そうこうしてるうちにさ。彼女の話を聞いてると、だんだん捻くれてる自分が情けなくなってきてね。
 どうしようもなく恥ずかしくてバカに思えてきたんだ。
 だって、そうだろう?
 僕にはこんな僕を愛してくれる両親も、兄もいるって言うのに勝手に自分の殻に閉じこもって悲劇のヒーロー演じてたんだから。
 彼女は僕よりもうんと辛い目に合ってるのに、全然捻くれてなんかいないんだよ。
 逆にとっても生き生きしてて、今一緒にいる子供達がとても好きだから、このまま一緒に生きて行きたい!そう言うんだよ。
 彼女のその時着ていた服はみすぼらしくて、凄く汚れてたのに、とっても綺麗だって子供心に思ったよ。
 それから、僕は彼女に案内されて、無事森を抜け出したんだ。

 また明日も会おう、ってそう約束して、彼女とは森の入り口で別れた。
 そのすぐ後に、両親と家の者に見つかって、散々怒られたり泣かれたりしたんだけど…。
 うん。
 初めて…だね。
 家族の前で初めて泣いたよ…「ごめんなさい」って。
 勿論、皆はびっくりしてたなぁ。
 それまで子供らしくない捻くれた目をしてたのに、急に素直になったんだから。
 でも…。
 皆、温かかったよ。

 それで、その翌日も僕は両親に「友達のところに遊びに行って来る」って言ってからアイリに会いに森に行ったんだけど、びっくりしてたなぁ。
 友達…って言葉を初めて僕が言ったもんだからね。
 それで…。
 両親と兄、それに家の者がこっそり僕の後をつけてたんだ…。
 いやもう、本当に、何て言うかさ。家族は僕に対して過保護なところがあってね。
 うん、まぁ、今でもそんな感じなんだけど。
 とにかく、その時は絶対に何かあったんだって思ったんだってさ。
 確かに、僕にとって大きな出来事があったわけだけど。
 その時はつけられてるなんて全然気付かなかったよ。

 約束した森の奥では、もうアイリが待っててね。
 二人で木の実を採ったりきのこを探したりしながら、楽しく…、本当に楽しく話をしたよ。
 あんなに人と話したのは、生まれて初めてだったな。

 そして…。

 地震が起きたんだ。

 丁度、少し切り立った崖の斜面の近くを歩いててね。
 危ないから引き返そうって事になって…。
 それで…。

 う〜ん、何が最初に起きたのかな。色々沢山同時に起きたからね。
 まず…。
 地震が起きて、僕がバランスを崩しちゃって…。
 崖から転落しそうになって…。
 そしたら、ライフストリームが本当に小さかったんだけど噴出してきて…。
 後をつけてた両親と家の者達が慌てて飛び出して来たのが見えたな…。
 でも、気付いたら隣を歩いていた彼女が、僕の手を両手で思い切り掴んでくれて…。
 そして…。

 彼女が僕の代わりにライフストリームに落ちて行くのが見えた…。

 あの後の事は良く覚えてないんだよ。
 彼女を追いかけようとして、僕もライフストリームに飛び込みそうになったって、僕を引き止めた両親が話してくれたけど…。
 家の者が彼女をライフストリームから見つけた時は、もう遅かったんだ…。
 ひどい中毒症状に侵されててね…。
 それで…。

 彼女には身寄りが無い事を僕から聞いた両親が、息のかかった孤児院に彼女を入れてくれたんだよ。
 本当は、我が家で引き取るか…って話も出たんだけど、それは僕が反対したんだ。
 え?何でかって?
 だって、両親の実子の僕ですら奇異な目で見るような世界だよ?
 そんな世界に彼女が入ったりしたらどうなると思う?
 絶対、僕以上に見世物になっちゃうよ。
 ん?彼女の親戚の人?
 ああ、それなら探し出したんだけどね。
 彼女の親戚の人達は、彼女が強盗に襲われて行方不明になった時、捜索願を出すことも、何もしてなかったんだ。
 それが何を意味してるのか…分かるよね?
 厄介者。
 そう思ってたんだよ。
 それなのに、中毒症状の重い彼女を、そんな人達が面倒見てくれると思う?
 無理だよね。
 だから…。
 彼女を孤児院に入れたんだ。
 
 でもね。
 その孤児院はエッジにあるからさ、彼女の好きな海は見れないんだよ。
 中毒症状に詳しいお医者様達に、何度も診てもらったんだけど…ね。
 お医者様達が言うには、彼女の故郷でゆっくり静養するのが一番だって…。
 でも、そもそも彼女がどこから来たのかっていうのは、聞いてなかったんだ。
 多分ミディール地帯のどこかだって事は見当をつけてたんだ。
 うん?何でかって?
 ああ、それは彼女が『生まれた時から潮風に当たってたのよ!だから、私、海が大好きなんだと思うの』って、嬉しそうに話してくれてたからね。
 だから、このまま施設にいてもらおうか、それともミディールの病院へ入院させようかどうしようか…、両親が悩んでるうちに、どんどん時間が経っちゃって。
 彼女もその間に、今の状態までは良くはなったんだけど…それ以上はね。

 その時に、こちらの先生から聞いたんだ。

 クラウドさんの話を。



 そう言うと、プライアデスは言葉を切ってクラウドを見た。
 クラウドとティファは無言だった。
 一体、何て言えば良いというのか?
 彼と彼女の生い立ちを聞き、彼の彼女への強い責任感を感じる今、一体どんな言葉をかける事が出来るというのだろう。
 口先だけの気休めなど、話を聞いてしまった今、何の役にも立たないという事くらい、痛いほど分かる。
 そう。
 彼が求めている言葉はただ一つ。
 彼女を癒す手立てだけ…。



 黙って俯くしかないクラウドとティファに、プライアデスは微笑んだ。
「すみません。分かってるんです、クラウドさんとティファさんも治す方法を知らないって。だから、先日お店にお邪魔した時も話をしなかったんです」
 そう言うと、ベッドに眠る恩人へと視線を移す。
「ちゃんと先生と看護師さんから話は聞いてます。ティファさんがクラウドさんと一緒にライフストリームに落ちた事も、ライフストリームの中での事も…。そんなお二人の様な方法を取る事なんか絶対に出来ないって事も…」
 眠る彼女へと手を伸ばし、その髪を優しく撫でる。
 その姿は、単に子供の頃に助けてもらった…それだけではない事を感じさせるものだった。
「ねぇ、ライ兄ちゃんはさ…」
「ん?」
「……その…」
「何?」
 キョトンとした顔で見つめる紫紺の瞳の青年に、デンゼルは言いにくそうに口をモゴモゴさせた。
 そんなデンゼルの様子に、クラウドとティファは何やら嫌な予感がすると目配せし合った。
 そして。
「ホラ、デンゼルもマリンも、長々とお邪魔しちゃ悪いわ」
「そうだな。先生、どうもお邪魔しました」
「え!?」
 確かに随分と長い間話しこんでいた。
 もう、太陽が西日になっている。
 しかし、あまりにも突然なことに、びっくりするデンゼルとマリンを二人は部屋のドアまで急き立て、改めて医師と看護師、それに少々唖然としているプライアデスに向き直る。
「本当にお邪魔しました。また明日帰るまでに寄らせて頂きます」
「いや、良いんだよ、そんなに慌てて帰らなくても。ここ最近は受診に来る患者さんも少ないし」
「ええ、でも私達もそろそろホテルにチェックインする時間ですから」
「ああ、そうか。そうだね、ではまた明日。楽しみにしてるよ」

 急に席を立ったクラウド達に少々戸惑いながらも、医師と看護師は柔らかな笑みをもってクラウド達を見送った。
「それじゃ、プライアデスさん。またエッジで」
「あ、はい。皆さん、ご旅行、楽しんで下さいネ」
「ああ、有難う」
 別れ際にプライアデスが見せた笑みに、クラウドとティファはどこか複雑な思いを胸に抱き、診療所を後にした。