幸せのかたち3




 診療所を後にした四人はしばし無言のまま歩いていた。
 子供達は何か言いたそうな顔をしていたが、クラウドとティファの顔を見て口をつぐんだ。
 二人は、子供達の不安そうな表情に気付いていたが、今しがた突きつけられた現実に頭が一杯で、何も言えず、ただ曖昧にぎこちなく微笑むだけで精一杯だった。

 自分達二人は本当に幸運だった。
 そう思わずにはいられない。
 魔晄中毒に侵された人間が、この世界にどれほどいるのか考えた事などなかった。
 いや、そうじゃない。
 考えまいとしていた節がある。

 モンスター退治等とはわけが違う。
 どう足掻いても自分達にはどうしようもない事柄なのだから。
 しかし、考えまいとしていたが、心の片隅にはいつも小さな小さな棘として残っていた。
 二年前、この地で養生せざるを得なかった過去は、他の過去同様、消す事など出来ないのだから。
 ライフストリームから帰還した時、思わずにはいられなかった。
 自分達は本当に幸運だったと。
 神羅の魔手にかかりながら、こうして己を取り戻す事の出来た人間が他にいかほどいると言うのだろう?まかり間違えば、あの黒いフードの男達と同じ様になっていたのだから…。
 これを『幸運』と言わずして何と言えば…?
 本当に素敵な友人がライフストリームから常に見守ってくれている…、その幸福を感じずにはいられなかった。
 そして、『彼女』は『彼』と共に今でもライフストリームから見守ってくれている。
 いつでも、その心は共にある。
 そのお陰で、カダージュ達との戦いの後、こうして家族揃って幸せな時を刻むことが出来るのだから。

 それがどうだろう?
 魔晄中毒に十年もの歳月を蝕まれ、今尚、苦しんでいる人を目にした時の衝撃。
 自分達がいかに幸福な条件の下で生きていたかを目の当たりにした今、素直にこの幸せな現実を喜ぶ事が出来ない。
 
 本当にこれで良いのだろうか?
 このまま、安寧な幸福に身を置いていて、本当に良いのだろうか…?
 分かっている。
 自分達が犯した過去の大罪が、いかにしても償う事が出来ない事は…。
 だからと言って、自分達が幸福になろうが、不幸になろうが、そんな事は正直関係ないという事も分かっている。
 確かに、過去の過ちの犠牲になった人々から見れば、自分達の今の幸福は許しがたいだろう。
 しかし、逆に自分達を良く知り、愛してくれている人々は自分達の幸福を切に望んでいる。
 どちらの想いを優先させるか…?
 決まっている…。
 自分達を愛してくれている人達の想いを優先させる。
 自分達も、その人達を愛しているのだから…。
 だが、しかし…。

 二人の思考は、出口の見えない袋小路にはまり込んでいた。



「うわ~!すっごく綺麗~!!」
「わ~!ティファ、クラウド!!見て見て、太陽が海に沈んでいくー!!」

 ホテルに着いた四人は、暗い空気を纏ったまま部屋に案内された。
 その後、クラウドとティファは、自分達の暗い表情の為に子供達まで暗い顔をしていることに反省し、子供達を伴いホテルの屋上にやって来た。
『当ホテルの屋上は解放していますので、宜しければ屋上に出て夕日をご覧になってみて下さい。
 太陽が海に沈む光景は、本当に素晴らしいですよ』
 そうフロントでホテルマンに勧められたのだ。
 確かに、彼の言う通り、目の前に広がる光景は素晴らしかった。
 真っ赤になった太陽が、金色の海に沈む様は筆舌にしがたい程の、自然の雄大さを物語っている。

「本当…。凄い眺めね…」
「…本当だな…」
 あまりの素晴らしい景色に、クラウドとティファは胸に広がっていた暗い靄を一瞬忘れて息を呑んだ。
 雄大な自然の姿に、素直に感動する。
 それと共に、自分達の存在がこの広大な大地の前には、本当にちっぽけな存在に思えてくる。
 そう…。
 今まで悩んでいたその悩みまでもが、取るに足らないものに感じてしまう…。

「なぁなぁ、クラウド!こんなに綺麗な夕日、エッジじゃ見れないよな!!」
「ああ、そうだな。エッジは建物が混在してるから、こんなに綺麗な夕日を見ようと思ったら、うんと高いところにでも登らないと見れないな」
「は~…、良いな~。こんなに綺麗な夕日、毎日見れるミディールの人って…」
「フフ…、マリン、とっても気に入ったのね?」
 うっとりとした声を出すマリンに、ティファが優しくその肩に手を置く。
「うん!だって、何だか心が『パーッと』なる気がするんだもん」
「何だよ、その『パーッと』って」
「むっ!何よデンゼル、馬鹿にしたわね!」
 途端にギャーギャーと言い争いをする子供達に目を細めつつ、クラウドとティファはマリンが口にした言葉に対し、妙に共感するものを感じていた。
 確かに、自分達もたった今、そう感じたところなのだから。
 心が晴れ渡るような…。
 魂が洗われる様な…。
 そんな自然の姿を目の当たりにして、今まで悶々と悩んでいた胸の内が、スーッと消えていくのを確かに感じたのだから…。

 こんなにも素晴らしい景色を、家族と共に見る事の出来る自分達は、世界中でもそうはいないほど、幸せ者だと改めて思う。
 そう。
 幸せは、身近にいくらでも転がっているものだ。
 それに気付くか気づかないか…。
 それが肝心だな…。
 クラウドは後になってティファにそう話した。



「なぁなぁ…」
「ん、どうした?」
「ん~、あのさ…」
 今までマリンと兄妹のじゃれ合いをしていたデンゼルが、急に声のトーンを落として、クラウドの服の裾を引っ張った。
 急な変化に、キョトンとする三人にどこか言いにくそうにもじもじとする。
「どうしたの?」
「ん…。あのさ…」
 しゃがみこんで視線を合わせるティファと、自分を不思議そうに見つめるマリン、そして掴んだ服の裾の先にある紺碧の瞳を前にして、デンゼルはますます言い出しにくそうにしていたが、思い切って顔を上げる。
「あのさ。アイリ姉ちゃんもこの景色、見てるかな~って」
「「「え!?」」」
 素っ頓狂な声を上げる三人に、デンゼルは夕日に負けないほど顔を真っ赤にさせると、頭をガシガシと掻き毟った。
「あ~…、だからさ!ホラ、何だかずっと病院のベッドの上しかいない感じだったから、可哀想でさ!……俺も病気で痛かった時は、ベッドの上で寝てるしかなかっただろ?だから…、その…ああ!!何て言ったら良いのか分かんないけど…!!とにかくさ!こんなに綺麗な景色なんだから見ないと勿体無いって言うか~…!!!」
「デンゼル…」
 恥ずかしそうに一気に言いのけたデンゼルに、クラウドとティファは複雑な顔をした。
 二人が言葉に詰まっている間に、マリンが素直に「うん!そうだよね!!」と頷いていた。
 そして、
「きっと、今頃ライお兄ちゃんと一緒に見てるわよ!」
 明るく、キッパリとそう言い切る。
「あ!そうだな、そうだよな!!うん。ライ兄ちゃんってアイリ姉ちゃんの事、物凄く大事にしてる感じだったしな!!」
 マリンの言葉にデンゼルはパッと明るくなると、ニコニコと屋上の手すりから身を乗り出し、ミディールを見下ろした。

 子供達の自然なやり取りに、二人は肩に入っていた力がフッと抜けるのを感じた。
 子供は素直に物事を見ることが出来る素晴らしい目を持っているものだ…。
 そう改めて感じる。
 それは、本当に素晴らしい事だと思う。
 いつの間に、自分はその目を失ったのだろう…。

 仲良く夕日に染まるミディールを見下ろしている子供達を見ながら、クラウドとティファは視線を絡め、微笑んだ。

 すると…。
「あ…。マリンの言う通りだ…」
「え?」
 デンゼルが、ミディールの一角を見つめてポツリと零した。
「ホラ、あそこ…」
 デンゼルの指差す方を見ると、遠く、小さな点にしか見えない人影が、ゆっくりとミディールののどかな風景の中、歩いているのが見える。
 その人影は、寄り添うようにしてゆっくりゆっくりと海に向けて歩いていた。
「あ…、本当!お兄ちゃんとお姉ちゃんだ!!」
 クラウドとティファも、その小さな点が昼間会ったばかりで、今の今まで話題の中心人物であった二人である事に気がついた。
「ああ、本当だ」
「でも、二人だけじゃないみたいね?」
 ティファが首を傾げる。
 どう見ても、人影は四つ。
 恐らく、医師と看護師も一緒にいるようだ。
 そして、四人が向かっている先は海…。
 クラウドとティファ、デンゼルとマリンは揃って顔を見合わせた。
 暫しの黙考。
 突然、デンゼルとマリンは揃って「「あ!!」」と声を上げると、びっくりしている大人二人を置き去りにして、駆け出してしまった。
「え!?」
「お、おい!!」
 クラウドとティファは、呆気に取られて暫し固まったが、ハッと我に帰ると慌てて子供達の後を追い、走り出した。



「おーーい!!」
「ライお兄ちゃーん!!」
 遥か先を歩く人影は、デンゼルとマリンの声に驚いて足を止めた。
「あれ!?デンゼル君とマリンちゃん!どうしたの?」
 びっくりして紫紺の瞳を丸くしているプライアデスの前で二人は急停止すると、大きく肩で息を整える。
 その頃には二人に追いついたクラウドとティファが、うっすらと額に汗を浮かべてやや慌てた様に医師達四人に会釈をした。
「二人共、どうしたの?びっくりするじゃない」
 呆れたように言うティファと、同じく呆れたような顔をしているクラウドを見上げ、子供達は少々バツの悪そうな顔をしたが、そんな二人には応えずにプライアデスに向き直った。
「なぁ、もしかしてライ兄ちゃん、もう帰るのか?」
「え?うん、そうだよ。良く分かったね」
 ますます驚くプライアデスに、今度はマリンが息せき切って話しかける。
「ねぇ、なんでそんなに早く帰っちゃうの?」
「え?」
「ちょ、ちょっとマリンにデンゼル。どうしたのよ、一体?」
「「だって、ティファ!」」
 見事に言葉をはもらせて子供達二人は大人達を見上げた。
「アイリお姉ちゃんが可哀想なんだもん!」
「そうだよ!だって、ライ兄ちゃんが来たのって、今日の昼過ぎじゃないか!」
 口々に詰る二人に、クラウドとティファはオロオロと戸惑った。
「こ、こら、二人共!」
「プライアデスさんにはプライアデスさんの都合があるんだから!」
「「だって!!」」
 諌める親代わりに、子供達は真剣な眼差しで見つめ返した。
 その姿に、クラウドとティファだけでなく、医師と看護師まで言葉を詰まらせる。
 そんな子供達に、プライアデスはフッと表情を和らげると、ニッコリと微笑みしゃがみこんだ。
「うん、僕も本当はもっといたいんだけどね。明後日にはボーンビレッジにいないといけないんだ。WROの仕事でさ」
「え…」
「でもさ…その…。せめて明日の朝早くに出るとかは駄目なのか?」
 自分の言葉にしゅんとなった二人の頭を優しく撫で、プライアデスは立ち上がった。
「本当は、今日も来れない予定だったんだけど、グリートが代わってくれたんだ。だから、僕は今までアイリとゆっくり出来たし、これ以上は贅沢言ってられないんだよ。それに、今から出る船に乗らないと、間に合わないから…」

 残念だけどね…。

 寂しそうに微笑むプライアデスに、デンゼルとマリンはますますうな垂れた。

 小さな頭で、一生懸命プライアデスを引き止める言葉を捜しているのが、クラウドとティファには手に取るように分かった。
 しかし、どうしても二人には分からない事がある。
 それは…。

「ねぇ、デンゼル君、マリンちゃん?」
「え?」
「なに?」
 膝に手をあて、視線を二人に合わせてプライアデスが顔を覗き込む。
「どうして、そんなにアイリの事気にしてくれるの?」

 クラウドとティファは思わずじっと三人を見つめ、子供達の答えを待った。
 それは、今まさに、自分達が疑問に思ったことだったから…。

 確かに、昼間は衝撃的な出会いをしたため、ある程度は気になる存在として心に残るだろう。
 しかし、ここまで感情移入するのは何かわけがるのだろう。
 医師と看護師も同意権だった様で、黙ったまま見つめている。
 アイリは、相変わらずどこを見ているのか分からない眼差しで、フラフラと頼りなげに揺れていたが、その片手はしっかりとプライアデスの腕を掴んでいた。
 大人五人が見つめる中、子供達はプライアデスの質問にキョトンとしていた。
「え?だって、アイリお姉ちゃんって何だかほっとけないんだもん!」
「うん!だってさ。アイリお姉ちゃん、ここにいても幸せになれない気がするんだ…」
「え………」
 デンゼルとマリンの言葉に、穏やかだったプライアデスの表情が強張った。
 その見開かれた紫紺の瞳には、明らかに子供達の言葉によって受けた心の傷が刻まれている。
 デンゼルとマリンは、ハッとしたのだろう。
「あ、その、ごめんなさい…」
「別にライお兄ちゃんが悪いって言ってるんじゃないの!でもね…。」
「デンゼル、マリン…!」
 少々きつい声で、クラウドが二人を諌める。
 プライアデスの表情に気付いたのは、勿論子供達だけでは無かった。
 当然、親代わりの二人と医師、看護師も気付いたのだ。
 そして、親代わりは当然の勤めとして、そのつもりは無かったが結果として彼を傷つけてしまった子供を叱る事と、プライアデスへ謝罪する責務を持つ。
「プライアデスさん、本当にすみません。二人共、プライアデスさんを困らせることを言っちゃ駄目でしょう?」
「………うん」
「ほら、もう一回謝って」
「いえ、良いんですよ」
 そんなクラウドとティファ、ションボリしている子供達を、優しく穏やかな顔でプライアデスは口を開いた。
「嬉しかったから、むしろこちらがお礼を言うべきですね」
 プライアデスの言葉に、クラウドとティファ、デンゼルとマリンはキョトンとする。
「お礼…、ですか?」
 首を傾げるティファに、プライアデスは「はい」と頷くと、自分の腕を掴んでいるアイリに笑みを向けた。
「アイリは、ここに来てから友達がいません。孤児院にいた頃は孤児院の人達がひっきりなしに彼女の部屋を訪れては何かしら話しかけたりとかしてましたが、ここにはそういう人もいないですし…。だから、アイリの事を思って一生懸命になってくれる人が居てくれて、本当に嬉しいです」

「なぁ、どうしても今帰らなくちゃ駄目なのか?」
「きっと、アイリお姉ちゃんも、ライお兄ちゃんにいて欲しいって思ってるよ!」
 食い下がる二人の子供に、クラウドとティファはどうしたものかと困惑した。
 が、そんなクラウドとティファの前で、プライアデスがポツリと零した。
「ああ、そうだと良いね…」

「「え……」」
 プライアデスの零したたった一言の言葉に、デンゼルとマリンはキョトンとし、クラウドとティファはギョッとした。
 プライアデスがアイリを大切にしている事は、僅かの時間しか一緒にいなかった四人にも痛いほど良く分かった。
 しかし、アイリがプライアデスをどう感じているのか…。
 それは、中毒症状の重い彼女からは聞く事も、感じる事も難しい…。
「マ、マリン!」
 ティファに大きな声を出されたマリンは、そんなティファにも驚いて目を丸くしている。
 どうやら、マリンには先ほどの自分の発言が、失言だと思っていないようだ。
 そんな二人のやり取りを尻目に、デンゼルが不思議そうな顔をして口を開いた。
「え~!だって、アイリ姉ちゃんって、ライ兄ちゃんが来てから、一回も一人で病院を出ようとしなかっただろ?あれってライ兄ちゃんの傍にいたいって事じゃないのか」
「「「え!?」」」
 デンゼルの言葉に、プライアデスは勿論、クラウドとティファも目を丸くした。
 本当に、今日の子供達には驚かされっぱなしだ。
 驚いていないのは、医師と看護師だけ…。
「え、え?そうじゃないのか?」
 自分の言葉に固まる大人達に、デンゼルは自信がなくなったのか弱々しく言う。
「そんな事無いわ!私もそう思うもん!!」
「そうね。私もそう思うわ」
「わしも同意見だね」
 それまで無言だった看護師と医師も頷いている。
 マリンが強く言い切った事と、看護師と医師により、デンゼルはニッコリと笑った。
 そして、改めてプライアデスをじっと見上げた。
「ねぇ、だから、アイリお姉ちゃんの為にも、明日までいられない?」
「リーブのおじさんなら、クラウドとかティファがお願いしたら許してくれるんじゃない?」
「え!?だ、駄目だよ、そんな事!!」
 マリンの発言に、プライアデスはギョッとして思わず大声を上げた。
 そして、すぐにいつもの穏やかな表情を取り繕うと、ビクッとしたマリンに謝罪する。
「ああ、ごめんごめん。びっくりし過ぎて大声出しちゃったよ。ほら、僕はまだまだ新人だし、色々沢山頑張らないと駄目なんだ。それなのに、わがままばかり言えないよ。二連休もらえたんだから、それで満足しないとね」
「二連休?」
「あ、はい。今日と明日、休みを貰ったんです」
「じゃあ、昨日の晩、仕事が終わってから船に…?」
「はい。一晩と今日の午前中かけて船で来ました」
 クラウドとティファは、僅かな時間会う為に無理して渡航したプライアデスに、表情を曇らせた。

 闘病生活を続けている彼女を支えるべく、僅かな時間も惜しんで会いにくる…。その姿が、二年前に旅をしていた頃の自分達の姿と重なってしまう。
 あの頃ティファは、仲間達にわがままを言ってクラウドの看病をさせてもらえた…。
 看病自体は辛いものだったが、それでも彼の傍にいる事が出来たのは本当に幸せな事だった…と、思っている。
 デンゼルとマリンだけでなく、クラウドとティファにまで、何とかしてやりたいという気持ちが見事に伝染した。
 クラウドはティファと視線を合わせて軽く頷くと、そっとその場を離れた。
「えっと、すみません。もうそろそろ行かないと間に合わなくなりますから…」
 申し訳なさそうにプライアデスは一言挨拶をすると、顔を曇らせている子供達にやんわりと微笑みかけ、「じゃ、またお店に行くからね」と言ってアイリに向き直り、腕に摑まっているその手を取って握り締めた。
 そして、振り返って軽く会釈をすると、港に向けて歩き出した。

「ああ、すまない。よろしく頼む」
 なす術もなく見送る子供達の後ろで、何やら携帯で話をしていたクラウドが、明るい声で携帯を切った。
 そして、
「プライアデスさん、ちょっと…」
と、声をかける。
「え?はい…?」
「明日、俺達も帰るんだが一緒に帰らないか?飛空挺で」
「「「え!?」」」
 クラウドの言葉に、子供達までもがびっくりしてクラウドを見上げる。
 予定では確かに明日帰宅する事になっていたが、それは船の予定だった。
 目をキラキラさせる子供達に微笑むと、戸惑っているプライアデスに向き直った。
「どうも、俺は乗り物が苦手でね。唯一大丈夫なのがフェンリルなんだ。バイクじゃ、海は渡れないだろ?だから、帰りはシドに飛空挺で送ってもらうことにしてたんだ。それに、飛空挺なら船よりもうんと時間が短縮出来る。明日の朝までゆっくりいられるだろう」
「あ…、でも…」
「ああ、もしかして船のチケット、もう買ってしまったか?」
「いえ、これから買う予定です」
「それじゃ、一緒に帰ろうよ!」
「そうだよ!そうしようぜ、な?」
 デンゼルとマリンが大喜びでプライアデスに駆け寄り、デンゼルはプライアデスの片腕を、マリンはアイリの片方の空いている手を握り締めた。
「で、でも…」
 プライアデスは当然、まだ困惑している。
 困ったようにクラウド、ティファ、そして医師と看護師に目をやり、最後には自分を見ているであろう虚ろな紺碧の瞳を持つ彼女へ視線を移した。
「ライ、皆さんのご好意に甘えたら?」
「…………」
「アイリの事、気にしていただろう?」
「……それは、そうなんですが……」
 看護師と医師が、悩んでいるプライアデスの背中を押すようにそれぞれ声をかける。
 それでも、生真面目な紫紺の瞳の青年はクラウド達の好意を受け取るのに躊躇していた。
 それは当然だろう、とティファとクラウドは思った。
 店で数回会っただけの間柄でしかないのだ。
 戸惑うなという方が無理だろう。
 しかし、どうしても過去の自分達の姿と重なってしまうこの二人に、何とかして力になりたいと思ってしまう。

 それが、例え共に過ごせる時間を僅かに延ばすだけであったとしても…。

「もしかして、飛空挺だと乗り物酔いが酷い…とか?」
 ティファが気遣わしげに訊ねる。
 その後ろで、クラウドが顔を引き攣らせてそっぽを向いた。
「あ、いえ。そういう事はありませんけど…」
「「じゃあ決定!」」
 子供達が嬉しそうに声をあげ、プライアデスとアイリの手を引いてもと来た道へと歩き出す。
 ニッコリと微笑むティファ、看護師、医師と、穏やかな眼差しで見つめているクラウドに、プライアデスはとうとう笑みを返した。

「すみません。お世話になります」