消失のとき 5







「クラウドさん、しっかり…」

 誰かの声がする。
 あまり記憶にない女の声…、ということは、看護師だろうと見当をつけつつ落胆してしまう自分にクラウドは心の中で苦笑した。

 まだ来るはずがない。

 リーブに連絡したのはついさっきだ。
 いや、本当についさっきなのだろうか?
 入院してからというもの、時間の感覚はほとんどないのだから。

 それでも…と、クラウドは夢の中をたゆたいながら思う。

 リーブに『家族』へ連絡をして欲しい、とお願いしたのはつい先ほどのことだ。
 その『勘}とも言える感覚を正しいことだと信じ、看護師の呼びかけに応えるようにして呼吸を整えた。
 ともすると、ここ数日の間、こうして浅い眠りに身をゆだねていると看護師が必死に呼びかけるようになった。
 どうやら呼吸を時折忘れてしまうらしい…。

 ホッとした雰囲気が閉じた瞼の向こうから伝わってくる。

 自分が医療に携わっている人間にどう見られているのか、入院当初から薄々感じてはいたがここまでくると観念せざるをえない。
 もう本当に時間がないのだろう。
 しかしそれすらもクラウドにとって、とても曖昧なものでしかなかった。
 本当に自分は生きていて、看護師に必死に呼びかけられるような『価値』があるのだろうか?と。
 実はもう既に死んでいて、これは死ぬ間際、最期に感じた一番印象に残っている残像を繰り返し見ているだけではないか…と。
 しかし、どうやらまだ『生きている』とかろうじて思えるのは、息をするのがとても大変だ、と感じる故だ。

 クラウドはしみじみと思った。

 生きることがこんなにも大変な作業の繰り返しだとは思わなかった。
 心臓を規則正しく動かして、息をして、食事をする。
 これだけでも本当に重労働だ。
 その重労働を何の気負いもなく無意識に行えていた元気な頃が懐かしい。
 勿体無い時間の過ごし方をしたものだ、と自分自身に呆れてしまう。

 出来ることなら、時間を巻き戻して元気だった頃に戻りたい。
 せめて、病気の初期症状を自覚したあの胃の不快感を感じたあの頃まで。

 そうしたら、もっともっと、大切に時間を使ったのに。

 しかしそれは絶対に叶わない願い。
 ならばせめて、最期の最後まで、残された時間だけは親友と仲間が言ってくれたように『家族』のために…。


 浅い眠りから深い眠りに落ちる狭間で閉じた瞼の裏側で見えたのは、別れ際に見た愛しい人の泣き顔だった。


 *


 元々白い肌をしているから、少しのあざでも良く目立った。
 それが、際立ってしまうようになってから1ヶ月と少し。
 点滴なしでは生きていけないほど病に蝕まれてしまったその腕には、どす黒いシミのような点滴跡。
 そっと触れてみると、きちんと毛布がかけられているにもかかわらずひんやりと冷たい感触。
 眠っているその胸が規則正しく上下していなければ、生きているとは思えないほどの…衰弱振り。

 だから、久しぶりに目にするクラウドの姿に子供たちは言葉をなくして暫し佇んでいた。

 ショックを受けている2人の背にリーブがそっと促すように触れる。
 ビクリ、と身を震わせて2人同時にリーブへ縋るような目を向けた。
 それはとても胸の痛む眼差し。
 しかし、それを柔和な笑みで覆い隠し、そっと頷く。

 そろそろと足音を殺し、まるで何かを恐れるように歩き出した小さな背中と歩を進め、クラウドにそっと声をかけた。

「クラウドさん、起きて下さい」
 クラウドさん。

 そう呼びかけている間、子供たちは固唾を飲んで眠っているクラウドの顔を見つめていた。
 張り詰めた空気が綻んだのはクラウドの瞼がピクリ…と動いたとき。
 ハッと息を呑んで身を乗り出したデンゼルとマリンが今度はリーブの代わりに呼びかける。
 何度目かの呼びかけに、とうとうまつげに縁取られた瞼から、アイスブルーの瞳がゆっくりと現れた。
 2・3回瞬きをして焦点を合わせたその双眸が子供たちを捉え、不思議そうに1・2回の瞬く。
 そして、ようやっと驚きで見開かれた。

 ゆっくりと持ち上がった白い腕。
 点滴の跡が痛々しく残っているその腕は緩々(ゆるゆる)とした動きで子供たちの頭をまるで掠る程度に通り過ぎてベッドにトサリ…と落ちた。

「デンゼル、マリン」

 それはほとんど声にならない掠れた声。
 耳を澄まさなければ聞こえないほど、弱々しい呼び声だった。
 しかし、デンゼルとマリンにはそれで充分。

 2人の目から後から後から大粒の涙が溢れて頬を濡らす。


「「クラウド…!!」」


 ベッドの上に飛び乗らんばかりの勢いで横たわっているクラウドにしがみつき、泣きじゃくりながら何度もクラウドの名を呼ぶ。
 クラウドも、ほとんど力の入らない腕を懸命に持ち上げ、2人の背へと回した。
 子供たちの泣き声が病室を満たす。
 リーブはそっと背を向けて目元を拭った。
 言葉にならないほどの切なさで胸が苦しくて仕方なかった。
 だから、気づかなかった。
 クラウドたちの姿から視線を逸らせたリーブも、クラウドにしがみついて泣きじゃくっているデンゼルとマリンも。

 クラウドが子供たちの背を抱きしめながら暫くその小さな温もりを愛おしんだ後、ふと何かに気づいて視線を彷徨わせことを。
 そして、ふぅ…と諦めたようなため息をこぼし、悲しそうに目を閉じたことを。

 自分を訪ねてくれたのが子供たちだけだった。
 それが一体何を意味するのか、深く考えなくても分かる。

「クラウド…?」
「クラウド…寝ちゃったのか…?」

 自分たちに回していた腕がシーツに落ちたことに気づいたマリンとデンゼルが、涙でクシャクシャになった顔を上げ、クラウドを覗き込んだ。
 まつげに縁取られた瞼は、1度だけ動いたが持ち上がることなくその後、ピクリとも動かなかった。
 胸はゆっくりと上下し、クラウドが深い眠りに落ちたことを示していた。

「デンゼル君、マリンちゃん、どうします?クラウドさん、最近はもうあまり起きていられないんです。1度眠ると中々目を覚まさないんですが…」

 優しく問いかけられ、2人は悩むことなくこのままクラウドの傍にいると答えた。
 子供たちの答えを予想していたリーブは頷くと、自分はこれからどうしてもWROに戻らないといけないことを伝え、後で人をやって食事や暇つぶしになるような本などを持ってこさせると言った。
 そうしてリーブは病室を後にした。
 本当は、子供たちの傍にいてやりたいと強く思いながら…。

 リーブが去った後、デンゼルとマリンは飽きることなくクラウドの顔を見つめ続けた。
 しっかりしているとは言え、まだまだ甘えたい盛りだ。
 2人とも本当の親を亡くし、今また養い親を亡くそうとしている。
 目を逸らせた瞬間、消えてしまいそうな錯覚を覚えてしまうほど、痩せて白い顔をしているクラウドに涙が溢れてくるが、それをグッと堪えてただ見つめる。

「クラウド…1人で寂しかったでしょ…?これからはずっと一緒だからね」
「クラウド…ごめんな、俺、全然気づかなかったから…だから、クラウドは俺たちのこと、今度こそいらないって思ったんじゃないかって…思っちゃったんだ…」

 涙を堪えてポツポツ話しかける。
 まるで、クラウドが起きて聞いてくれているかのように。
 2人とも、それぞれクラウドの手を握り、暖めるようにゆっくりと撫で摩りながら語りかける。
 深く眠っているクラウドに、自分たちの声が夢の中でも聞こえるように…と。

 そして、その声と温もりをクラウドは確かに感じていた。

 自分には勿体無さ過ぎる温もりだ。
 傍にいてくれるのはとても嬉しい。
 目を開けたとき、子供たちの顔が見えたあの瞬間、歓喜が心いっぱいに溢れてきた。
 子供たちがしがみついてきてくれたとき、2人の体の重みで病に蝕まれた身体は悲鳴を上げたが、胸のうちは満たされた。

 そうして次の瞬間、子供たちと一緒にいるはずの人がいないことに気づき、心がひび割れた。

 声にせず、心の中でそっと親友に謝った。
 ごめん、ダメだった…と。
 遅かった…と。
 せっかく、励まし、何度も後押ししてくれたのに、グズグズしてたからかな…?結局ダメだった…と。

 もう、認めざるを得ない。

 自分は完全に失ってしまったのだ、かけがえのないものを。
 彼女の中から自分は既に消えた者なのだ。
 なら…。
 もう良いんじゃないだろうか?
 これ以上、頑張る理由はないんじゃないだろうか?
 勿論、駆けつけてくれた子供たちのために頑張らなくては!と思う自分もいる。
 だが、本当のところ心がひび割れてしまった瞬間から、どうしようもなく『苦痛からの解放』を求める気持ちが湧き上がっていた。
 これまで必死に目を背けていた身体の苦痛がどっと押し寄せていた。
 息をするだけで肺は焼け付きそうなほど熱いくせに、吐き出す息は口腔を通る頃には弱々しい冷たい吐息と化してしまう…。
 身体の各部分が悲鳴を上げて限界を訴え、子供たちがしがみついた場所はズクズクとした重く強い痛みをもたらしていた。



 これ以上、生きててもしょうがないよな?



 そう思った瞬間、クラウドの中でプツリ…と何かが音を立てて切れた。

 意識が暗い暗い、底なし沼に沈んでいく…。


 *


 ティファは黙って最後まで医師の話を聞いていた。
 右隣ではシド、左隣ではユフィ、そして足元ではナナキがグシグシと鼻を鳴らしている。
 更に、真後ろではバレットが小さな声で繰り返し、バカ野郎、と言っていた。
 そのバレットの更に後ろではヴィンセントがティファと同じように黙って医師の話を聞いていた。
 仲間たちに囲まれ、ティファは気丈に振舞った。

 子供たちをこの場に居合わせなくて本当によかった…と、張り裂けそうな心を抱えながら自分を慰める。

 リーブからクラウドに会ってやって欲しい、と連絡を受けて一も二もなくセブンスヘブンを飛び出した。
 仲間たちが勢ぞろいしているのは、ティファが自殺してしまわないように心配してここ数ヶ月、ずっと泊り込んでいたからだ。
 そんな優しくも熱い仲間たちに囲まれ、ティファは医師に告げられた言葉を飲み込んだ。

 もう、いつ心臓が止まってもおかしくない…。

 告知されてからまだわずか3ヶ月と少し。
 こんなにも急激に身体が破壊されてしまうとは思いもしなかった。
 当然、医学はクラウドの病状に追いつくことなど出来ず、未だに治療法はおろか原因解明にすら至っていない。
 しかし、クラウドと一緒に過ごせる時間がこんなに短いとは。

 ティファは思った。

 これはバツなのだ…と。
『あの時』、クラウドを試した浅ましい愚かな女が顔を出してしまった自分へのバツなのだ。
 そのバツに、子供たちや仲間を巻き込んでしまったことが本当に申し訳ない。

「ティファ…」

 ユフィが泣きながらティファの腕にしがみついた。
 ゆっくりと彼女の華奢な背を撫でながら、ティファは更に思う。

 あの時、不治の病に侵されて気も狂わんばかりに苦しんだクラウドを追い詰めた自分に、果たして彼の最期を看取る資格があるだろうか…と。

「ティファ」

 ハッと顔を上げる。
 いつの間にか傍に来ていたヴィンセントが静かに見下ろしていた。

 視線だけで促されて腰を上げる。

「これ以上後悔したくないなら…時間がないぞ?」
「!!…はい」

 ヴィンセントの言葉に息を吸い込み、腹に力を入れて頷く。
 ヴィンセントも軽く頷くと、
「私もこれ以上、後悔したくはないしな」
 と呟いたのが聞こえた。

 医師に頭を下げて面談室を後にすると、教えられた病室を目指して一歩を踏み出す。

 そう、後悔するなら後で良い。
 今は…、時間の残されていない今は、もっと大切なことのためにその『貴重な時』を使うべきだ。

「ヴィンセント……ごめんなさい」

 半歩先を歩いていたヴィンセントに並ぶと、彼にのみ聞こえるよう小さく呟く。
 ヴィンセントは視線だけチラッと寄越した。

「いや…、私もどうかしていた。いくらクラウドに腹を立てていたとは言え、あんな風に追い詰めるべきじゃなかった…。私がもっと冷静だったら、絶対にしなかっただろうし、ティファお前を必要以上に後悔させることもなかった。今考えれば、クラウドが2度もお前たちを切り捨ててしまったことが自分でも信じられないほどショックだったんだろう…。勿論、だからと言って許されることではなかった…」
 言葉を切り、前を見つめたまま更に言をつむぐ。

「だからティファ。アレはお前だけの罪じゃない。私の罪でもある。だから、1人で抱え込むな。良いな?」

 寡黙な仲間がサラリと言った言葉がティファの心に優しく染み渡る。

 こんなに優しくされる資格などないのに…、と思う。
 心苦しいなんてものじゃない。

 弱音を吐き、クラウドの心が分からないと泣いたティファに、ヴィンセントは黙って傍にいてくれた。
 勿論、傍にはユフィたち他の仲間がリーブ以外全員揃って自分や子供たち支えてくれていた。
 しかし、ユフィたちは皆、クラウドへの愛ある批判を口々に叫んでいて、それがティファにとってはとても苦しかった。
 忘れたいのに忘れさせてくれないから…。
 目を背けたいのに背けさせてくれないから。

 そんな時。
 客の1人がやってきた。
 例の若い男だ。
 クラウドが出て行ったあの時からずっとCLOSEの看板を吊るしているセブンスヘブンを心配して…。

 そうして、男は仲間たち、子供たちの前で堂々と言った。
 あの時、抱きしめて告げた言葉はウソ偽りのない自分の心だ…と。
 子供たちもひっくるめてティファを大事にしたい…と。

 気色ばんだ仲間たちは早々に男を追い出したが、その後で妙な空気の流れになった。

 誰も言葉にしなかったが、クラウドが本当に星に還ってしまった後、ティファはどうするのだろう…と。
 勿論、クラウド以外の男とティファが…というのは想像出来ないし、したくない。
 それが仲間の本心だ。
 しかし…とも思う。
 これから先、長い一生、ティファは女の喜びを知らないまま、星に還ることになって本当に良いのだろうか…と。
 なら、今の男でも良かったんじゃないか?
 子供たちもひっくるめてティファを受け入れてくれるティファと同年代の男が、この星に一体どれくらいいるだろう?

「別に、今の男でも良かったのかもしれないな…」

 様々な心労を抱えたティファが寝室へ戻った後、ヴィンセントがポツリ…とこぼした。
 猛然とユフィが反対したが、それ以外の英雄は押し黙った。
 ユフィは反対の言葉を口にせず、押し黙った仲間を激しく詰った。
 子供たちはそんな大人たちを店の隅のソファーに座り、暗い眼でじっと見つめていた。
 少し休むことでちょっぴり気分が良くなったティファが、仲間たちのやり取りを耳にしたのはその日の夕食後だった。

 クラウド以外を『家族』に迎えるのか?

 デンゼルとマリンが怯えるようにして聞いてきたとき、ティファは小さく笑った。
 小さく笑って、『考えられない』と言った。
 2人はそれを『クラウド以外と一緒になるなどあり得ない』と受け取り、ホッと安堵の笑みを浮かべた。
 しかし、仲間は違った。

『考えられない』=『今はまだ、考えられない』

 だから、少なくとも仲間たちはショックだった。
 ティファの心がそんなにも疲弊していたのか…と。
 疲れさせたクラウドにまたも怒りが湧く。

「本当に、今のままで良いのか?」

 そんな時だった。
 夜、眠れなくてカウンターの中で酒を飲むのがここ数ヶ月の習慣となっていたティファに、ヴィンセントが声をかけた。
 ティファは嗤った。
 いいわけがない…と。
 そんなことは分かりきっている、今のままでは絶対にいけないことくらい。
 しかし、心がどうしてもついていかない。
 あんなに酷い切られ方をしたのに、それでもまだこんなにもクラウドが愛しい。
 クラウドが恋しい。
 寝ても覚めても、頭の中も心の中もクラウドのことだけしかない。

 いっそ、目の前にある包丁で胸を一突きして、先に星に還ってしまいたい。
 そうしたら、近い将来星に還るであろうクラウドを出迎えることが出来る。
 エアリスやザックスよりも早く…、誰よりも早く、一番にクラウドを出迎えられる。
 そうしたら…。
 病から解放されて、考えもすっきりと以前のように出来るようになったクラウドなら、一番最初に出迎えた自分を見て、ビックリして、そうして言葉をちゃんと聞いてくれるだろう。
 本当に愛していた…と、告げるその言葉をきちんと聞いてくれるだろう。
 もしかしたら、少しくらい好意を返してくれるかもしれない。

「ティファ、そんなことを言うな。クラウドを信じろ」

 泣きながら、嗤いながら愚かな考えを吐き出したティファに、ヴィンセントがそう言った。
 しかし、クラウドに傷つけられた心が悲鳴を上げている状態のティファには到底届かない言葉だ。
 しかも、アルコールが入っていて冷静な判断が出来ない。

「無理、もうダメなんだよ!クラウドは……もう…」
「ティファ、そんなことはない」
「ううん、もう…とっくに手遅れなの!クラウドはね、私に他に男の人が出来ても嫉妬すらしてくれないんだから。ウソだって思う?試しに言ってみたら?私に新しい恋人が出来たって。きっと、小躍りして喜ぶわよ。厄介払いが出来た!って!!でも…、もう良いの。私だっていつまでも引きずってたらダメなことくらい分かってる。今日来たあの人、良い人でしょ?あの人ならクラウドのことも知ってるから、こんな私でも本当に受け入れて」

 泣き叫ぶように言い放ち、自分自身を傷つけようとするティファを遮るように片腕で抱き寄せる。
 ヴィンセントに初めて抱きしめられ、ティファはピタリ…と止まると、肩を震わせて泣きじゃくった。
 そんなティファに、ヴィンセントは決意した。

 ティファが口走ったことを実行してみよう…と。

 モデルは勿論、店に来た若い男。
 ヴィンセントがその男をモデルにしたのは、もしかしたら本当にそうなるかもしれない、と思ったからだ。
 無論、ティファには言っていない。

 死期が迫っている人間に対しての一か八かの賭け。
 しかし、ヴィンセントは大丈夫だと思っていた。
 クラウドのティファへの想いの強さをちゃんと知っていたからだ。
 ティファが言うような態度を取ったのは精一杯の強がりだということを確信していた。
 だから、少し揺さぶりをかけたらすぐにボロを出すと思った。

 だが結果は失敗。

 リーブにクラウドが望むまで来るな、と釘を刺された。
 ヴィンセントは浅慮な行動を深く後悔した。
 そして…ティファも。

 だが今、クラウドは堅い態度を和らげた。
 もしかしたらこれが最後かもしれない。
 なら、後悔ばかりが残る状況にある今を少しでも救われたものにしたい。

 様々な思いを抱えて歩く。

 クラウドの病室までほんの少しのはずなのに、その距離が異様に長く感じられた…。