The bonds between he and her6
翌日。
早朝にも関わらず、バレットは相変わらずのハイテンション振りでセブンスヘブンにやって来た。
「父ちゃん!」
「おー!マリン!!元気だったかー!!」
「うん!」
「バレットっていっつも元気だよなぁ」
「なぁに子供が元気の無いこと言ってんだ!?さぁ、行くぞ!!」
「「はーい!!」」
賑やかに子供達がバレットのトラックに乗り込む僅かな時間に、バレットは見送りに出ていたティファとクラウドを気遣わしそうに見ながら声を潜めた。
「おい、本当に俺からって事にしといて良いのか?」
「うん。ごめんね、急に変な事お願いして…」
「いや、俺は別に良いんだけどよ…。でも、何か他に力になれる事があるんだったら言ってくれよ?」
「うん。大丈夫、本当にごめんね」
「ああ、良いって事よ。それよりも、帰ったらちゃんと説明してくれよ?」
「ああ、分かってる。きっとこの一週間の間に話がまとまると思うから…」
クラウドとティファの言葉から、不穏な空気を読み取ったバレットは、一瞬不安そうな顔をした。
しかし、何か言いたそうな顔をしつつもグッと言葉を飲み込んで、いつもの様に口を開けて豪快に笑った。
「おう!俺はお前らを信じてるからよ!帰ったら絶対に話し、聞かせてもらうぜ!!」
そう言い残してバレットはトラックに乗り込むと、嵐の様に走り去った。
トラックが見えなくなるまでティファとクラウドは手を振り続け、車から身を乗り出して手を振る子供達との少しの別れを惜しんだ。
やがて、トラックがエッジの街並みに消えると、二人は互いに見向きもせず、無言で店の中に戻って行った。
そして、その後すぐに、クラウドは荷物を抱えて出てくると、それをフェンリルに括りつけ、一人、店の前から去って行った。
ティファの見送りは無かった。
その夜。
セブンスヘブンはいつも通り営業していた。
いつもなら、看板娘と看板息子の手助けがあるのだが、今夜はティファ一人での営業の為、いつもよりも回転が滞りがちだ。
だが、そんな事は常連客達にとって問題ないようで、いつもと変わらず良く働く女店主を笑顔で見守っていた。
「ティファちゃん、一人で店を切り盛りするの、大変だろう?何か手伝おうか…?」
「いいえ、大丈夫です。ごめんなさいね、いつもよりも料理をお届けするのに時間が掛かっちゃって…」
「良いんだよ!俺達はティファちゃんの笑顔を見れるだけでさ!」
「そうそう!子供達がいないっていうのに店を開けてくれるだけで、御の字さ〜!」
「フフ、有難う。そう言って頂けて嬉しいわ」
客達の温かい言葉に、ティファは笑顔でもって応える。
いつもなら、看板娘の明るい笑い声や、看板息子の悪戯っぽい笑顔があるセブンスヘブンだったが、今夜はそれもない。
しかし、逆に言えば子供達というおまけがない分、ティファとのコミュニケーションを取り易い状況なのだ。
これを喜ばずして何とする!?
そういう心境から、常連客(男性限定)は、初めてのこの状況を楽しんでいたりする。
「あれ?」
「どうしました?」
開店してから少し時間が経った時、常連客の一人が店の一角を見て驚いた。
「いつもある例の置物、どうしたの?」
「あ…!本当だ!!」
「ん?何々?」
その声に、他の常連客達も興味津々でその一角を見る。
「あー!チョコボの置物、どうしたの?」
一人が素っ頓狂な声をあげ、周りの常連客が色めきたった。
そう。いつもならその席の主がいない時は、決して脇にどけられないチョコボのクリスタルガラスの置物が、今夜は置かれていなかった。
当然、予約席と書かれたプレートも無い。
これは何かあったのではないか!?
客達がそう思うのも当然である。
そして、皆の視線が女店主に注がれた。
ティファは、皆の突き刺さる様な視線に後退り、「えっと、まぁちょっとね…」と、言葉を濁してカウンターの中へ足早に戻って行った。
その後姿に、常連客達は声を潜めて囁き合った。
「なぁ、もしかして、もしかする……?」
「え…、でも、あんなに昨日までラブラブだったじゃん…!?」
「でもなぁ、今までチョコボの置物が無かった事ないだろう…?」
「それに、何だか元気が無いみたいだし…」
「……これは、もしかして…!?」
「ああ、もしかするのでは…!?」
変な期待のこもった瞳をティファに向ける客達に対し、ティファは曖昧な笑みを浮かべるだけだった。
と、そこへ新たな客がドアを押し開けて入って来た。
「今晩は、ティファさん」
「よう、ティファちゃん!相変わらず精が出るね〜」
「あら、クレーズさんにエリックさん。いらっしゃいませ、お二人揃ってお越しなんて、何だか不思議な感じがするわね」
昨夜、意気投合した二人が揃って来店したのを見て、ティファはニッコリと微笑んだ。
「ああ、実はさっきそこでバッタリ会ったんですよ」
「そうそう!んで、セブンスヘブンに行くって言うから一緒に来たってわけだ」
「まぁ、そうだったの。あ、それじゃ、ここに座ってくれます?」
ティファに席へ案内された二人は、席に着くまでのわずかな間、キョロキョロと店内を見渡した。
「あれ?そういやぁ、看板娘と看板息子はどうしたんだ?」
「そうそう、そう言えば今日はマリンちゃんとデンゼル君、公園に遊びに来ませんでしたね。風邪でも引いてるんですか?」
心配そうな顔をする二人に、ティファは微笑んだまま首を振った。
「ううん、違うの。今日から一週間、マリンのお父さんが二人を旅行に連れてってくれてるのよ」
「え!?一週間も?」
「ええ、そうなの」
「へ〜!このご時勢に一週間も旅行とは、流石、ジェノバ戦役の英雄さん達は豪気だねぇ〜」
「昨日会った時はそんな事言ってなかったのになぁ」
「昨日急に決まったから…。ごめんなさいね、心配かけて」
「いえいえ、良いんですよ。気にしないで下さい」
感心したような声を上げる二人に、ティファはニッコリと微笑み返し、いつも通り注文を取った。
注文を取り終えてティファがカウンターの中に戻った時、常連客の一人がクレーズとエリックに声を潜めて話しかけてきた。
「よう、聞いたかい?」
「何を?」
「どうも、クラウドさんとティファちゃん、何かあったみたいだぜ」
「「え!?」」
思わず大きな声を上げて、慌てて首を竦める。
「何かって、一体なんだよ?」
不自然にコソコソとしながら、話かけてきた常連客にそっと訊ねる。
その常連客も、クレーズに合わせてコソコソ隠れながら、そっとカウンターの中のティファを窺いながら口を開いた。
「ほら、例の予約プレートのチョコボの置物。あれが無いんだよ」
「な……!?」
「あ、本当だ…」
常連客の言葉に、二人はカウンターに視線を走らせた。
そして、昨夜まで確かにあった置物が、今夜はどこにも見られない事に、口をあんぐりと開ける。
話かけてきた常連客は、二人のリアクションに満足したらしく、更に話を続けた。
「それに、俺の女房が今朝見たらしいんだけど…」
「何を…?」
「今朝、子供達を見送ったすぐ後に、クラウドさんが荷物をバイクに括りつけてたらしいんだ。しかも、店から出る時も、バイクに乗って走って行った時も、ティファちゃんの見送りは無かったんだってよ」
「ま、まじかよ…?」
「昨夜見た時は、喧嘩してる様には見えなかったんですが…」
「いやいや、もしかすると、普段から少しずつお互いにズレが合ったのかもよ。んで、それを上手に隠してただけかも…」
「それに、今回の子供達の旅行だって、ひょっとするとティファちゃん達が気まずくなったから、急遽取り決めた…なんて考えも出来なくないしな…。何しろ、子供達にとって良い話じゃないし…」
「子供達がいない間を見計らって、お互いの身辺整理をするつもりなのかもしれないぜ?」
呆然とする二人に、別の客達が割り込んだ。
「し、身辺整理って…」
あまりの話の展開に、エリックは完全に目が踊っている。
クレーズはいつになくムッツリとした顔をして、カウンターの中で忙しそうにしているティファを見た。
「ま、詳しい話は全然分からないんだけどな。それでも、やっぱりチョコボの置物が無いっていうだけでも、この店にとっては大事件だ。そう思わないか?」
「………思う」
「だろう!?」
「何にせよ、ティファちゃんがチョコボの置物を置かないっていう事は、俺達にチャンスが回ってきたって事だよなぁ?」
無責任に喜んでみせる常連客達に、クレーズとエリックは不快気に眉を寄せた。
そして、クレーズは突然立ち上がると、カウンターの中にいるティファに、
「悪いけど、俺の分はキャンセルしてくれ。やっぱ、今夜は帰るわ」
と、言い残すと本当に店から出て行ってしまった。
エリックと他の常連客、そしてティファはそんなクレーズに呆気に取られて声すらかける事が出来ず、その後姿を見送った。
「それにしても、クレーズさん一体どうしたのかしら…」
エリックのテーブルに料理を運んできたティファが、心配そうな声を出す。
それに対し、エリックも周りの常連客も曖昧に笑って見せるだけだった。
まさか、クラウドとティファの別れ話が出てきて、その話の途中で不機嫌になったなど、どの口が言えようか!?
「そ、そんな事よりもティファちゃん!この料理、もう一皿追加ね!」
「あ、はーい。少々お待ち下さいね?」
客達は、クレーズの不快そうな顔を見て、自分達の浮かれきった感情を少々恥じていた。
しかし、それでもやはり大半の客達は、未だに興味津々な顔をして、忙しく立ち回っているティファを眺めるのであった。
やがて、時刻が閉店に近づくにつれ、酒に酔った客が当然出てきた。
そして、酒に酔っているが故に、口が軽くなってしまうのも、自然な流れと言えよう…。
そんな彼らの口から出てくる言葉は、本日最大の関心事になってしまうのも、致し方ないのかもしれない…。
「なぁ、ティファちゃん?クラウドさんと何かあったの?」
「え…。いえ、特には…」
「え〜、でもいつもの置物が無いじゃん?これは何かあったと思っちゃうんだけどな〜」
絡んでくる常連客達に、ティファはあくまでも曖昧な笑みしか浮かべなかった。
そんなティファに、少々痺れを切らした客の一人が口を挟む。
「クラウドさんは、今夜は帰って来ないのかい?」
しかし、この問いにもティファの返事は、「ええ…多分…」と言う、ハッキリしないものだった。
「多分って、何で?」
「クラウドさんの予定、ティファちゃんが知らないって事無いだろう?」
幾人かの客達が、酔いに任せて突っ込んだ質問を重ねる。
しかし、やはりこの問いにもティファは困ったように笑うだけであった。
そんなティファを見て、常連客達の中のクラウドとティファが、『別れる寸前・もしくは別れてしまったカップル』になってしまったのは自然なのかもしれない…。
そうして。
この考えは、さして広くない店内にいた常連客達にあっという間に伝染した。
そして、質問口調から一転し、彼女の隣を狙う台詞に切り替わる。
「そうそう!俺達は皆、ティファちゃんの見方だから、遠慮しないで何でも言ってよ!」
「えっと、お気持ちはありがたく頂戴しますね…?」
「お気持ちだけじゃなく、何でも相談してよ!きっと、力になれるさ!」
「お!?お前、何言ってんのさ!ティファちゃん、こいつに何か相談するくらいなら、俺の方が頼りになるからさ!遠慮しないでくれよー!」
「何なら、今すぐにでも相談に乗るぜ!?」
「おい、何言ってんのさ。ティファちゃん、こいつは女房持ちだから、俺にした方が良いぜ!」
「こらこら!お前は婚約者がいるだろう!?」
「ンな細かいこと、気にすんなよ」
「「「いや、気にしろよ!?」」」
などなど、客達は一生懸命自分を女店長にアピールした。
しかし、自分に甘い言葉をかける常連客達に、ティファははっきりとした事は何も語らない。
ただ、曖昧に微笑んでいるだけだ。
その姿に、客達は勝手な想像を膨らませ、更に店内は賑やかになるのだった。
そんな店内でただ一人、エリックだけは、他の常連客達と違って終始とまどった顔をしていた。
昨夜初めて店に来たという事もあり、又、日頃デンゼルとマリンからクラウドとティファの様子を聞いていた事もあって、俄かには信じられなかったのだろう。
これからのデンゼルとマリンの事を心配したのかもしれない。
一人でクルクルと働くティファの姿を、労しそうな眼差して見つめているだけで、浮ついた表情ひとつ見せる事無く、そのまま出された料理を黙々と食べ、店を後にした。
エリックが去って行った後も、セブンスヘブンはいつも通りに閉店時間まで活気に溢れていた。
いつも以上に、変な意味で盛り上がったセブンスヘブンは、今夜も大盛況ではあった…。
しかし、ほんの一部の常連客達は、言い知れぬ不安と、満ち足りない気持ちを胸に、店を後にするのだった。
やがて、閉店時間となり、最後の客を送り出したティファは、一つの溜め息を夜気に吸い込ませて店に入っていった。
閉店後のセブンスヘブンから明かりが消えたのは、それから少ししてからの事だった。
そして…。
セブンスヘブンの明かりが消えた後も、クラウドが店に帰る事は無かった。

|