『他人と1本の注射器を使いまわすことがどれほど危険であるかが当時は知られておらず、ティファさんと同じように感染し、命を落とした人は少なくありません』

『彼女と同じ注射器を使った人たちは病気ではない原因で随分前に亡くなられたそうなので、他に感染している人はいないようですが…』

『ティファさんは、ご自分が怪我をして出血したとき、ご家族の誰にも血を触らせなかったと仰っていました。そのことに間違い無いですか?』

『保菌者の血液が傷口等から入ることによって感染してしまうんです。血に触っていないのなら大丈夫、感染することはありません』

『え?注射器を使いまわしたその用途…ですか?彼女は『痛み止め』と『化膿止め』だったと話してくれました。生まれ故郷を出てすぐに加わった反・神羅組織でのことだそうです。その組織は彼女が入ってすぐ、壊滅してしまったと聞いています』

『当時、神羅が世界を牛耳っていた頃は、レジスタンス活動が本当に盛んでした。まともな病院にかかることも出来ない人たちがほとんどで…。ですからティファさんのように、負傷したときは自分達で痛み止めと化膿止めを打って対処するということが当たり前だったんです。ティファさんもそのお1人でしょう』

『折角、命を賭してまで手にしたかった星の平和。それがようやっと現実のものとなってまだたった2年です。それなのに、これからの星の姿を見ることが出来ないなんて…』

『僕の父もね、レジスタンスの一員だったんですよ。父もティファさんと同じで…。あの時、まともな医療の知識を持っている者がメンバーの中にいればあるいは…と、今でも悔やまれます。だから僕は、医師の道を志したんです』

『クラウドさん。おツライでしょうが、どうか心を強く持ってください。彼女が最期のときを迎えるその日、その瞬間、幸福だったと言えるかどうかはあなたにかかっています』


『あなたがティファさんにとって、絶対的な存在なのですから』





時の剥落 4






 時刻は深夜をはるかに回り、そろそろ夜明けの明星が空に瞬く頃になっている。
 にもかかわらず、その部屋の明かりは煌々と点けられ、室内を眩しいくらいに照らしていた。
 なのに、ベッドに横たわるティファの顔色は真っ白で色が無く、胸が微かに上下していなければ生きているとは信じられないほど、生気がなかった。
 クラウドはベッド横の椅子に腰を下ろし、眠り続けるティファをジッと見つめ続けていた。
 細く白い腕からは点滴のチューブが伸び、ベットの頭側にはモニターがピッ…ピッ…、と鼓動に合わせて小さな音を鳴らしている。
 そっと手を伸ばし、頬に触れると微かな温もりが指先に伝わり、彼女が生きているのだと知らせていた。
 そのまま指先を顔の輪郭に沿ってゆっくり滑らせ、唇にそっと触れる。
 ゆっくりと落ち着いた息遣いが指先に伝わり、クラウドは喉の奥底からこみ上げてきそうなものを飲み込むかのように深く息を吸った。
 名残惜しそうに指を唇から鼻先へ、そしてまた頬へと伝わらせる。
 輪郭に沿って指を這わせ、髪に辿り着くと滑らかな絹のような手触りの黒髪を優しく梳いた。

 なにも変わらない。
 なにも、どこも、少しも変わったところは無い。
 いつもと変わらない手触り。
 いつもと変わらないティファの感触。
 いつもと変わらないティファの温もり、心振るわせてくれる存在。
 包み込んでくれる優しさを湛えた彼女の強さも、彼女と言う存在そのものも、何も変わっていないというのに。

 それなのに。

「…っ」

 クッ…、と喉が鳴る。
 その音すら、今のクラウドにとっては危険なものだった。
 眠るティファの首に手をかけて、将来訪れるであろう恐怖や苦しみ、そして大きすぎる悲しみに襲われるその前に、今、眠っている彼女を解放してやりたくなってしまう。

 そんな危険な思想に囚われかける己の危うさにクラウドは頭を掻き毟られるほどの嫌悪を感じた。

 いっそ、全部無かったことにしてしまいたかった。
 ティファが風呂場で倒れたことも。
 病院に運んだことも。
 医師から告げられたことも。
 全部全部なかったことにして、何も知らずにノホホンとしていたあの時間に戻りたかった。
 そうして。
 そうして…?
 そして、どうしたいというのだろう?
 何も知らないまま半年が過ぎた頃、打ちのめされてしまった方が良いと言うのだろうか。
 その方が真実を知った今よりも良かったというのだろうか?

 冗談じゃない。

 そんなこと…絶対にイヤだ、と強く思う。
 強く思いすぎて吐き気がするほどだ。
 なら、今、こうして全てを知らされた事実をどうして受け入れられない?
 不幸中の幸いだったと言えない?
 ティファの死の直前まで何も知らず、突然彼女が目の前からいなくなってしまうことに比べたら、こうして全てを知ることが出来たのは自分の望み通りと言っても良いじゃないか。

 ああ、だがしかし!

 クラウドは膝に肘を着くと頭を抱え、鷲掴んだ。
 髪が根元から抜けてしまうほど強く掴みながら、小さく小さく身体を丸め、胸の痛みに悶える。

 なぜ今、この時なんだ?
 人がいつか死ぬなんてことは当たり前な話しだ。
 だが何故?
 何故、この年で!
 まだまだティファは生きて、今までツライ時間が多かった分も取り戻して、『ああ、もう十分生きた』と満足してから旅立つはずだった。
 その資格を彼女は持っているはずなのに。
 それくらい彼女は本当に本当に苦しんでもがいて生きて、自分よりも他人を優先して頑張って…。
 そんな彼女が、たった23歳で将来手にするはずの幸福全部を根こそぎ奪われてしまうというのか?
 ふざけるな!
 世の中に彼女ほど素晴らしい女性(ひと)は2人といない。
 むしろ、生きている価値の無い人間がどれだけ世にのさばっていることか。
 ティファではなくそいつらこそが死ぬべきではないか。
 他人を虐げ、暴利をむさぼり、己の利益しか求めないそんな輩こそが。

 死ぬべき人間が生き、生きるべき人が死ぬ。

 なんて理不尽な現実だ。
 到底容認なんか出来ない。
 絶対に認めない。
 絶対に絶対に、認めてなんかやらない。

 …だけど。

 クラウドは小刻みに震えながら顔を上げた。
 鷲掴んだせいで髪が乱れているが全く気づかないまま、眠るティファを見つめる。

 あと半年。
 半年後、彼女は手の届かない場所へ逝ってしまう。
 どんなに追いかけたくても子供たちがいる今、絶対にそれが叶わないところへと旅立ってしまう…。
 いや、あと数十年後には自分も逝くことになるが、その日の訪れは普通で考えれば10年や20年ではないだろう。
 その間、自分がこれからの半年を無かったことにして生きることが出来るだろうか?
 ティファとの美しい思い出だけを胸に刻んで終わりの刻(とき)まで自分の時間を刻むことが出来るだろうか?

 絶対に無理だ。

 繰り返し繰り返し、この最後とされる半年の時間を思い出すだろう。
 思い出し、『もっとああしておけば良かった』『こうしておけば良かった』とズルズル引きずるに決まっている。
 どんなに時間を大事にし、どれほどティファのために尽くして過ごしたとしても。

 中途半端に過ごした結果、ズルズルと後悔の念に囚われながら自分が最期まで生きるのは別にかまわない。
 そんなことはどうでもいい。
 自分の不甲斐なさが招いた結果でしかないのだから。
 だがティファはどうだろう?
 将来、振り返り見れば後悔しかしない時間を提供するということは、それはそっくりそのままティファにとって、貴重な半年を無為に過ごしたことにならないだろうか?

 もう2度とやり直しが出来ない時間を。

 ならば。
 自分のすべきことは自ずと導き出されるではないか。
 ティファのために、これからの半年を生きる。
 ティファのために自分の時間、全てを使う。
 彼女が喜ぶために、
 彼女が幸せだと笑えるように。
 少しでも長く生きたいと心から思えるように。

 だけど。

 クラウドは底なし沼に引きずり込まれるような重く、苦しく、息苦しさすら感じさせる思いに押しつぶされそうだった。
 一体、どうしたらいいのかが分からない。
 ティファのために時間を使う、ということが具体的にはどうするべきなのかがこれっぽっちも浮かばない。
 仕事を辞めてずっと傍にいることは簡単だ。
 だが、果たして生真面目な彼女が喜んでくれるだろうか?
 そもそも、四六時中ベッタリ傍にいることを彼女は承諾してくれるのか?
 いやきっと、自分のことは良いから頑張ってやるべきことを果たすように、と言ってくるにきまっている。
 その彼女の意見を退け、傍に居続けたとしてもそれがティファにとってストレスになったら意味が無い。

 それに。
 自信がなかった。

 ティファの傍にいて、最期の一瞬まで彼女を支え続けられる自信がない。
 ティファにとっての一番の支えになれるだけの自信がない。
 それは、刻々と死が近づく彼女の傍で己を保てる自信が全く無いからだ。
 うろたえ、焦り、無様な姿を彼女の眼前で晒してしまう様が容易に想像出来る。
 そして、彼女はそんな自分に苦しい息の下でこう言うのだ。

『ごめんね、クラウド。ツライ思いをさせて…本当にごめんなさい』

 情けなさ過ぎる想像に、クラウドは激しく1・2回、頭を振った。
 ギリリ、と奥歯をかみ締め強く目を瞑る。
 振り払っても振り払っても、無様な自分の姿が消えてくれない。
 拳を握り、己の膝を打ち付ける。
 ジン…と熱い痛みが膝を中心に全身へ広がっていくようだ…。

 そう考えると、自分よりもむしろ子供たちの方こそがティファにとって、大きな支えとなり、慰めになるとクラウドは本気で思った。
 勿論、幼い子供たちにそんな大任を背負わせるつもりはさらさらない。
 さらさらないが、それでもデンゼルやマリン以上に自分が上手にティファを支え、励まし、穏やかな時間を過ごせるよう安らげる言葉をかけ、痛みや恐怖に震える時に寄り添い、頼られる存在になれるとは思えなかった。
 自分よりもデンゼルやマリンの方こそがはるかに相応しいと言い切れる。
 そう思ってしまうほど、クラウドは今、自分の存在の小ささに打ちのめされていた。
 そして、それと同時にティファの強さと優しさをかみ締めずにはいられない。

 先ほど医師に告げられるまで誰もティファの状態を知らなかった。
 それはまさに、彼女がたった1人で苦悩し、死の恐怖に晒されながら歯を食いしばっていたという事実そのもの。
 昨夜の、いや、今となっては一昨夜となるが、彼女の様子から考えると医師に告知を受けた時からどのようにして自分や子供たちに告げるか必死になって考えていたことが窺い知れる。
 それを、勝手に子供たちや自分は勘違いして、話しを完結させてしまっていたのだ。
 しかし、その完結させた話しをティファは再度、やり直そうと覚悟を決めてくれた。

 自分とは大違いだと思う。
 1年前。
 星痕症候群が発症したとき家族にも誰にも告げず、1人で勝手に自己完結させて逃げ出した自分とは。

 その事実に心が八つ裂きにされたかのように痛くて…、苦しくて…、それだけで死ねそうだった。
 いやいっそ、本当に死んでしまいたい。
 ティファに置いて逝かれるよりは、自分が先に逝って彼女を星の中で待っていたい…。
 そんな情けない思考に囚われ、クラウドは自己嫌悪とティファを近い将来、確実に失うという突きつけられた現実によって、気が狂いそうだった。

 確実に近い将来、失うことになるのだと告げられた今、改めて彼女が自分にとっての支えだったという事実を思い知る。

 半年後。
 ティファを失った状態で自分は果たして”これまでと同じ自分”でいられるだろうか?
 いや。
 そんなの……無理だ。
 どんなに仲間が励ましてくれても、どれほど子供たちが傍にいてくれたとしても、誰もティファのかわりになれやしない…。


「…ティファ…」


 震える声で小さく小さく呼びかける。
 真っ白な顔で眠り続けるティファはその固く閉ざした瞼を震わせることすらなく、ただひたすら今は休息を取っていた。
 クラウドは震える手をそっと彼女へ伸ばし、ティファの滑らかな頬へ指を滑らせた。
 先ほど触れたとき同様、ティファの頬はほんのり温かく生きていると告げていた。

 まだ…生きている。

 いつしかクラウドは椅子から冷たい床へと下り、眠るティファへ跪くように膝を着いていた。
 両手でいつもよりも冷たい彼女の手を握り、己の額へ祈るようにして押し当てる。
 閉じた瞼の裏には、病など知らなかったつい昨日までのティファが満面の笑みを浮かべていた。

 クルクルとよく変わる表情。
 子供たちと笑いながら話し込んでいる姿。
 真剣な眼差しで食材を選んでいる横顔。
 楽しそうに接客をしている生き生きとした眼差し。

 その全部はクラウドの胸の中で力強く生きていて、それがこれからは”過去になる”とはどうしても思えなかった。
 どうしても…。
 どうしても突然突きつけられた事態が受け入れられない。

 底なし沼に首までズブズブとはまり込んでしまったような気分だ。
 自分1人では絶対に這い上がれない。

 深い絶望を味わいながら、ただただ、近い将来訪れる大切な人の”死”を思い、恐怖に雁字搦めになる中で、ティファが目を覚ました時、絶対にこの胸の内を見せてはいけない、とクラウドは言い聞かせ続けた…。


 *


 重だるい瞼を懸命にこじ開けてまずぼんやりと見えた白い天井に、ティファは心の中で首を捻った。
 いつ、寝室の天井を木製から漆喰に変えたのだろう…?
 それに、この独特の鼻につく消毒液の匂い…。
 厚いヴェールがかかったかのように判然としない頭を気だるげに動かし、窓を、そしてなんとなく自由の利かない自分の腕を見て、そこに刺さっているチューブにギョッとした。
 一気に記憶が舞い戻って蒼白になる。
 慌てて起き上がろうとしたティファは、だが温かく力強い手によって肩を押され、阻まれた。

「あ…」
「急に起きると気分が悪くなるぞ?」

 静かでいつもと変わらないクラウドの声。
 口元にはホッと安堵の笑みが浮かんでいる。
 だが、ティファはいつもとは違う緊張をその一言から敏感に感じ取った。
 ティファは冷水を浴びせられたような気がした。

 自分の身体に巣食うものを知られてしまったのだと確信する。

 自ら伝えなくてはならなかった大切なことを、他の人間(医師)の口から伝えられてしまったのだ。
 自分でちゃんと伝えようと心に堅く誓ったのに、結局ズルズルと告げることが出来なかった。
 風呂場で、長く湯に浸かってしまったのもそれが原因だ。
 どのように切り出そうか延々考えていたのだ。
 気づいた時には視界が狭くなり、頭がぼんやりとしている状態で、自分が湯あたりをしてしまったことを悟った。
 シャワーで温い湯を浴びてから上がろうとしたのだが、コックを捻ったところまでは覚えている。
 浴室のドアを開けたことも。
 だが…。
 その後は真っ黒に記憶が塗りつぶされていて全く覚えていない。

「ティファ?まだ気分が悪いのか?」

 心配そうに声をかけられ、ハッと目を上げる。
 色白のクラウドが心なしかいつもよりも顔色が悪く見えてティファは愕然とした。

 命に関わる重大事を自らの口で告げる事が出来なかった、告げなかったことをクラウドは一体どう受け止めているのだろう?
 頼りにならないから打ち明けなかったのだと。
 打ち明けるに足りない存在なのだと思っている、などと勘違いされていたら?
 いや、まさにその通りなのだ。
 だから彼は傷ついている。
 そして傷つきながらもこうして傍にいてくれたのだ、目が覚めるまで。
 どれほどクラウドを苦しめたんだろう?
 不器用だが優しく、繊細な彼を。

 ティファは激しく己を呪った。
 自分が仕出かしたクラウドへの仕打ちに自己嫌悪が心を引き裂く。

 小さく体が震えだしたのを見てクラウドは微かな笑みをサッと消した。
 緊張感も露わに勢い良く腰を上げる。

「ティファ、どこか痛いのか!?」

 身を乗り出し、張り裂けんばかりの形相にティファの胸は更に軋んだ。

 そんなに心配してもらえるような価値など自分には無いのに…。

 怒涛のように襲い掛かる胸の痛みに耐えかね、堪えきれない涙が幾筋も頬を伝う。
 クラウドがハッと息を飲み、目を見開いたのが涙で曇る目にぼんやりと映る。
 それ以上、愚かな自分に傷つくクラウドを見たくなくてティファは両手で顔を覆った。
 申し訳なくて、悲しくて、情けなくて、ますます涙が止まらなくなる。
 喉の奥が痙攣し、激しくしゃくりあげながらティファは声を搾り出した。

「ごめんなさい…」

 クラウドを頼りにしていないから打ち明けられなかったのではない。
 断じて違う。
 誰よりも傍にいて、誰よりも寄り添って欲しいと思っている。
 ただ、どうしても口にするのが恐ろしかった。
 自分がいなくなることをどう受け止めてしまうのかが分からなくて、これからのことを思い悩んで曇る顔を見たくなくて、ズルズルと打ち明けるタイミングを逃しただけ…。
 本当は、一番に打ち明けたかったのだ自分の口で、言葉で。
 そうして…出来れば一緒に泣いて欲しかった。
 ほんの少しでいいから泣いて欲しかった、近い将来、彼の人生からいなくなることを悲しんで欲しかった。

 だが、言葉に出来たのはただ一言の『ごめんなさい』だけ。
 震えて掠れ、耳障りな声しか出せない。
 おまけに何に対しての『ごめんなさい』なのかクラウドにはさっぱり伝わらないだろう。
 きちんと想いを言葉にしなくては余計な誤解をますます生んでしまう、と分かっているのにむせび泣くティファにはそれ以上言葉を紡ぐことが難しかった。
 頭の中はごちゃごちゃで、むせび泣くせいで酸欠に近いティファは真っ暗闇に堕ちていくのを感じた。
 このまま今すぐ死んでしまえば良いのだ、と思ったその時。

 まさしく息が止まるほどに強く抱きすくめられた。
 驚きすぎて一瞬にして涙が止まる。
 ヒクヒクと、喉が痙攣するがそれもただの名残のように弱くなっていた。
 痛い、とも苦しい、とも言えず、ただ大きく目を見開き小さく震えることしか出来ない。
 どうして抱きしめられているのか混乱するティファは、クラウドもまた小さく震えていることに気がついた。
 そして…聞いた。
 囁くように小さく彼がごめん、と言ったのを。
 ティファはただひたすら驚いていつしか息を止めていた。
 そんなティファをますます強く抱きしめながら、クラウドはもう1度、今度はほんの少し大きな声でごめん、と言った。

「苦しんでることに気づかなくて…、ティファの体調に気づかなくて…、本当にごめん」

 あぁ、神様。

 ティファは息を吸った。
 胸に新しい酸素と言葉に出来ない想いがいっぱいに溢れる。
 こみ上げるものが喜びなのか、それともクラウドを悲しませていることへの哀しみか。
 自分でもよく分からないまま、ティファは自分を受け入れ、抱きとめてくれる愛しい人にしがみつくように腕を回した。

 この温もりにあとどれだけ包まれることが許されるのか、心の片隅で残された時間を思いながら…。